インタビュー

メインビジュアル

【 社長インタビュー 】

顧客に選ばれる宅急便 来年サービス50周年

2025年06月03日

ヤマト運輸 阿波 誠一 社長

 ヤマト運輸(本社・東京)は来年1月、主要事業の宅急便がサービス開始50周年を迎える。4月に就任した阿波誠一社長は「顧客に選ばれる宅急便にし、成長させたい」と意気込む。実現へ、集配ドライバーのコミュニケーション充実や幹線輸送の協力会社の負荷解消が重要と話す。

 ――来年1月20日で宅急便は開始50周年。
 阿波 顧客に選ばれる宅急便にし、成長領域の事業に戻すことが私の最大の使命。営業店が屋台骨になる。そこで働く人の力で、宅急便事業も会社も成長させられる。社員の力を引き上げられる仕組みや戦略を検討したい。
 ――宅急便の成長には集配ドライバーが鍵。
 阿波 顧客の話を聞いたり、定時に届け品質を守ることは当然のこと。顧客のおかげで集配ドライバーは成長している。顧客に向き合い誠心誠意対応することが重要だ。
 ――就任時のメッセージでも伝えた。
 阿波 〝キーメッセージ〟として「誠心誠意」を選択した。顧客からヤマトさん、クロネコさんではなく、集配ドライバーの名前で呼ばれたら、地域に密着できている証しで、ドライバーが成長している。

コミュニケーションが課題

 ――コロナ禍ではコミュニケーションの課題が浮き彫りになった。
 阿波 コロナ禍でECが盛り上がり、宅急便の取扱個数が増加した。その中でこの数年、集配ドライバーに業務効率を上げるよう強く求めてきた。一方で配達に追われ、顧客の要望を聞きソリューション(課題解決策)を提案する能力が落ちてしまった。
 ――5月21日にはポスト投かん型の新商品「こねこ便420」を全国展開した。
 阿波 久々の新商品。集配ドライバーにはこねこ便を、宅急便の取扱個数を増やすための材料として、顧客とのコミュニケーションに生かしてほしい。ドライバーは毎日100~200件の顧客応対をしている。こねこ便を顧客との話題づくりのきっかけにして、他に集荷する荷物がないか、困り事がないかと聞き取れるといい。
 ――効率と品質を両立する上で何が課題か。
 阿波 配達網を伸ばしてきたが、市場が見込める集荷に人員を十分に投入できていない。荷物が多い場面で多くのドライバーが稼働できるようにしたい。例えば、業務量が少ない土日のフルタイマーを月曜、金曜にシフトできれば戦力アップが図れ、効率と品質を追求できる。地域ごとに戦略を検討したい。

幹線運輸でも取り組み実施

 ――幹線に対する取り組みも不可欠。
 阿波 荷物が増加しているECは大手、中小共に関東に倉庫が多く、帰り荷確保が課題となる。例えば関東―北海道間の幹線輸送では、関東から10台の大型車を出せても北海道からの帰り荷が少なく、5台分しか確保できていない。全国で同様の課題があり、協力会社に負荷がかかっている。モーダルシフトも含めた解消策を検討したい。
 ――協力会社と新たな取り組みも始めた。
 阿波 昨年から、3カ月に1回、協力会社の経営者を集めて要望を聞いている。これまで経営状況や困り事を聞く場があまりなかった。現在は運賃を含め、いろいろなニーズに応えていこうとしている。また、今年から、協力会社を主管支店長ごとでなく、阿部珠樹常務執行役員が見る形にした。全国で見て、効率的に行える幹線輸送がどのようなものかを考えるようにしている。

記者席 日本品質の良さと苦労

 ヤマトホールディングスではグローバル事業にも携わった経験があり、数年間、アジアに宅配を売り込んだ。アジア各国を回る日々が続いた中で実感したのは、日本の宅配の付加価値の高さと、海外現地のニーズに合わせるための苦労だ。
 日本ですっかり定着した、時間指定やコールドチェーンといった付加価値に対する意識はアジア各国ではまだ薄く、「日本のサービスのままでは合わなかった」と振り返る。現地に売り込むには、日本で宅急便を開始した時と同じ規模の投資を行わないといけない難しさも感じた。
 そのため「海外での売り込みには、日本とは異なる戦略を立てる必要がある」。グローバル事業で注力する取り組みは、フォワーディング、国際引っ越し、越境ECに絞る考え。

(略歴)
 あわ・せいいち=1970年10月6日生まれ、54歳。熊本県出身。93年法大社会卒、ヤマト運輸入社、2007年高知主管支店長、15年執行役員経営戦略部長、17年常務執行役員、18年ヤマトホールディングス常務執行役員、24年ヤマト運輸専務執行役員、25年4月1日社長。