インタビュー
【 全ト協・事業者大会特集 インタビュー 】
さらに魅力あふれる業界へ 転換期を前に一丸で
2026年10月13日
全日本トラック協会 寺岡 洋一 会長
全日本トラック協会は、2028年に迫る適正原価制度や事業許可更新制の施行を前に、「トラックドライバーの適切な賃金確保」と「トラック運送業界の質の向上」の実現に向け、業界一丸で取り組む。寺岡洋一会長は、「トラック適正化二法の趣旨である『我が国の物流の持続可能性の確保』と『国民経済の健全な発展』を図るため、運輸事業振興助成交付金を有効に活用し、社会的責任を果たしつつ荷主や消費者への理解を深める活動を進めたい」とする。
――トラック業界は大きな転換期を迎えている。
寺岡 チャンスと言ってもよい。国会議員や国土交通省をはじめとした行政による社会や荷主に対する「このままでは物流が壊れる」という危機感の共有もあり、トラック運送業界への注目度は高まっている。会長として身の引き締まる思いを感じているし、業界全体でその期待に応えなければいけないと考えている。
――事業環境も変化している。
寺岡 ドライバー不足の深刻化・高齢化で輸送力不足が危惧されている。全ト協としては〝決して物流を止めない〟という強い使命感を持ち、会員企業の適正取引推進、事故防止対策、経営支援、人材確保などに全力で取り組んでいる。
――トラック企業の存在は変えない。
寺岡 トラック輸送は重要な社会インフラだ。一方で、ドライバー不足や高齢化、燃料価格をはじめとした諸経費高騰など経営環境は日々厳しくなっている。どれも単独では解決できない問題で、トラック輸送の持続可能性という観点から、適正原価や事業許可更新制などを含む諸施策があると理解している。
生活や災害支援も担う
――物流なしにはあらゆる産業が成り立たない。
寺岡 国民生活や日本経済を支え、7月に発生した「令和8年熊本地震」など、災害時には被災地支援を担う。物流が弱れば社会的な影響も大きい。トラック輸送の持続可能性を高めるためには、荷主や行政、消費者も含めた関係者が一体となって解決に取り組んでいく必要がある。
――価格転嫁と業界の健全化がセットだ。
寺岡 これまでは、車両費、燃料費や人件費、さらに安全や環境対策などでコストが上昇しても、運賃に反映されてこなかった。その結果、ドライバーの待遇改善、安全対策や環境対策などへの投資を十分に行うことが難しくなるという悪循環が生じている。安全・安心な輸送サービスを提供し続けるためには、企業が適正な運賃・料金を荷主から収受し、それを労働環境改善や人材育成などに充てることで、好循環に変えていかなければならない。
交付金の有効活用に向け
――交付金の維持も実現した。
寺岡 まさにトラック運送業界の社会的役割と協会の取り組みが理解された成果だ。坂本克己最高顧問を中心に業界が一丸となって与野党議員に訴え、交付金の根拠となる軽油引取税の暫定税率が廃止された4月以降も5年間維持されることとなった。交付金が有効に使われていることを示し、31年度以降も交付金で行われている事業が引き続き実施できるよう尽力したい。
――事故防止などトラック運送業界の健全化の原資。
寺岡 輸送サービスの向上や安全・環境対策、適正化事業、災害対応など全ト協、都道府県ト協の事業の原資として交付金が有効に活用されており、交付金は重要な制度だ。
――適正化実施期間の巡回指導で評価の低い企業も一定数存在する。
寺岡 どうすれば良い評価を得られるかを伝え、改善に取り組んでもらう必要がある。巡回指導の評価が低い企業でも、取り残さず、乗り越える壁を明示し評価を引き上げることが協会のあるべき姿だ。そうすることで、業界全体の質の向上が図られる。
――政府の下では適正原価の話し合いが進んでいる。
寺岡 国交省が論点整理と方向性についての議論を進めるため「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を設置し、7月と8月に検討会が開催された。私と物流政策委員長を務める馬渡雅敏副会長が専門委員として参画している。伝えるべきことは伝え、聞くべきことは聞く。その上で、持続可能なトラック業界実現に向けた適正原価の在り方というものを議論していきたい。
会員企業の声集め
――業界の声を代弁する。
寺岡 有識者検討会でのヒアリングに向けて都道府県トラック協会などに意見照会したところ、約1500件に上る大変多くの意見・要望が寄せられた。また、全国各ブロックを回り、会員とコミュニケーションも取っている。こうした会員からの声を踏まえ、業界の実態に即したきめの細やかな制度設計を求めたい。
――協会でも議論を進める。
寺岡 私が委員長として「トラック適正化二法対策委員会」を立ち上げている。会員企業の意見を集め、業界としての意見集約を図る。同時に、先述の有識者検討会で、業界の求める適正運賃の在り方を積極的に発言していく。
――許可更新制については。
寺岡 業界の健全な発展に向け、必要な制度だ。更新制の目的は、企業を排除することではなく、安全管理や法令順守などの状況を継続的に確認し、質の高い企業が適正に評価される環境が整備されること。もちろんトラック運送業界の多くを占める中小・零細企業への影響にも十分配慮が必要で、過度な事務負担やコストの負担は避けるべきだ。国交省をはじめ関係省庁と緊密に連携して現場の声を新たな制度に反映していきたい。
仲間増やし理解求め
――持続可能な物流には世間の理解が不可欠。
寺岡 インターネット通販などでは、「送料無料」という誤解を招く表現が広く使われているが、実際には送料が存在しないということはあり得ない。商品を届けるための輸送コストは必ず発生していて、誰がどのように負担しているのかを理解してもらうことが重要だと考えている。
――適正なサービスには対価が必要。
寺岡 全ト協として、物流の価値やトラック運送企業が果たしている役割について、積極的に情報発信していく必要がある。単に「運賃を上げてほしい」と訴えるのではなく「安全で確実な輸送を維持するためには、適正なコスト負担が必要だ」ということを伝えたい。
誤解招く〝送料無料〟
――それが荷主、ひいては消費者の利益に。
寺岡 適正なコスト負担が最終的に国民生活や経済活動を守ることにつながるということを分かりやすく伝えていくことが重要だ。荷主には、トラック企業が事業継続や企業価値向上を支える重要なパートナーと認識してほしい。
荷主の協力不可欠
――荷主にどのような協力を求める。
寺岡 物流効率化法の改正により、全ての荷主に物流効率化のために取り組むべき措置として、「(1)積載効率の向上等、(2)荷待ち時間の短縮、(3)荷役等時間の短縮の努力義務――」が課され、これらの取り組みの例を示した判断基準が策定されたことを踏まえ、荷役作業の効率化や、荷待ち時間の削減、発注・納品方法の見直しなど、両者が協力することで物流の生産性向上につながる取り組みを推進していきたい。
――消費者には。
寺岡 時間指定配送の活用や再配達削減、まとめ買いなど消費者の小さな行動が物流の負担軽減につながる。
――その理解を深めることが、人材確保にもつながる。
寺岡 エッセンシャルワーカーであるトラックドライバーは、日々ハンドルを握り、荷主や消費者に荷物を届け、国民生活を支えている。そうした誇りと責任に見合った待遇となれば、ドライバーという職業が選ばれるようになる。労働環境改善や賃金水準向上を実現することで、好循環が生み出せる。
安心して長く働ける
――トラック運送業界も変わらなくては。
寺岡 安心して長く働ける業界となることが求められる。近年では女性ドライバーの活躍が広がっていて、対応する車両設備や休憩施設の整備、柔軟な勤務体制の導入などできることは多くある。
――若者も取り込みたい。
寺岡 社会を支える誇りある仕事だということを伝えることが重要だ。そのためには、トラック運送業界の魅力発信にも力を入れる必要がある。学校訪問や職場体験、インターンシップなどを通じてドライバーの仕事内容や社会的意義を直接伝える機会を増やしていきたい。
――もちろん今いる人たちにも報いたい。
寺岡 仲間を大切にする業界でありたい。安全教育の充実や健康管理の推進、キャリア形成支援などこの業界でずっと働きたいと思える環境整備を行う必要がある。
――トラック協会の事務局の力も不可欠だ。
寺岡 協会活動を支える事務局の力があってこそ、さまざまなことが実現している。これからも会員企業と事務局が一体となり、業界のあるべき姿を実現するために頑張っていきたい。
――役割を伝える。
寺岡 先日、地震で大きな被害に見舞われた熊本を視察した。全国から送られた支援物資を被災者に届けるには、物流の力が不可欠で、物資集積拠点では会員企業の従業員の皆さんが活躍していた。トラック協会も自治体職員などとの調整役となる災害物流専門家を育成し、災害時に派遣している。こういったトラック輸送の役割や使命を伝えることが、業界に対する評価や魅力の向上につながる。
