インタビュー

【 社長インタビュー 】
世界と戦える企業体質へ 陸海空の一体化さらに

2017年07月18日
日本通運 斎藤 充 社長
日本通運(本社・東京)は5月、斎藤充社長を中心とする新体制をスタートした。渡辺健二会長による陸海空一体化を目指す大規模な組織改正を経て、「真のグローバルロジスティクス企業として、さらなるプラスアルファを生みだしていくことが役割だと考えている」と斎藤社長。同時に、従業員が幸せを感じられるように、適切な労働時間や適正な給与、社会的評価の高い職場を構築し、「企業価値を高めたい」と語る。
――社長就任から2カ月、心境は。
斎藤 顧客や関係先へのあいさつ回り、全国支店長会議や安全衛生大会など社内イベントへの参加と日々追われる毎日。改めて、顧客層の幅広さとトップ営業の大切さを痛感している。
――顧客の反応は。
斎藤 顧客トップには、同時期に海外で過ごした人も多く、共通の経験を持っていることで話題が広がることもある。最近は荷動きも良く、顧客の景況感は悪くない。このまま続けば追い風になるのではないか。
コストコントロールに成果
――平成29年3月期は、減収増益。
斎藤 営業利益は前期比4.8%増と良い数字を残すことができた。自動車運送や通運を含む国内複合事業中心に取り組んできた限界利益管理などで、コストをコントロールする力がある程度ついてきた。
――一方で売上高は、減少した。
斎藤 特に日通本体の減収にやや不満が残る。今後、大口顧客が集中する東名大を中心に営業拡大を図る。国内製造業の大半は何らかの形で海外との関わりがある。陸海空1体で営業活動を行うことで、もっと売り上げを伸ばすことはできる。
――1月には、東京に国内最大拠点「Tokyo C‐NEX」を建設した。
斎藤 現在は首都圏支店中心の運用となっているが、今後は海・空も一体になって活用していきたい。羽田・成田の両空港や東京港に近い好立地。真の意味で陸海空一体の象徴として、機能させていきたい。
――課題は。
斎藤 陸・海・空それぞれに歴史があり、力がある立派な柱に成長している。そのために、部門間の横串を刺すことが難しい。人事交流などを通じて、しなやかな組織に育てたい。
――海外はどうか。
斎藤 東南アジアが主戦場になるとは思うが、欧米にもまだまだ拡大の余地は残っている。アフリカは、人口も多く金の流れも活発だ。ヨーロッパ系の企業が強く中国系企業も広く根を張っているが、将来的な進出を見据え準備を進めている。
――非日系企業の取り込みも欠かせない。
斎藤 まだまだ成長の余地がある分野だ。昨年シンガポールに非日系企業の市場開発と営業開発に特化した「グローバル・ロジスティクス・イノベーション・センター」を開設。積極的に取り組んでいる。
従業員が幸せと感じる会社
――長時間労働削減をはじめとした働き方改革が業界の課題だ。
斎藤 川合正矩相談役が社長の時代から経営トップは長時間労働の撲滅に取り組んできた。社会全体が長時間労働削減に向かういまは、取り組みを進めるチャンスだ。従業員が幸せと感じられる会社にしたいと願っている。
――具体的には。
斎藤 業務内容に見合う適正な給与を払うという公正な賃金制度が必要だ。同時に、社会からきちんと評価され働きがいのある職場でなくてはならない。充実した家庭生活を送るためには、労働時間削減も求められる。上司・同僚・部下との風通しの良いコミュニケーションも大切だ。
――原資である料金収受や手待ち削減など顧客の理解も必要だ。
斎藤 契約、作業条件、交渉経緯なども踏まえて、顧客ごとに丁寧に対応していく。運賃の見直しだけでなく、業務量や範囲の拡大などで吸収できることもある。ただし手待ち時間など無償サービスとなっている部分は、状況をしっかりと説明し理解を求め適正な対価を収受していきたい。
――新技術の導入も積極化。
斎藤 5月に「ロジスティクスエンジニアリング戦略室」を新設した。以前は部門や子会社ごとに行っていた先端技術への対応を、プロジェクトごとにチームをつくり一体化して行う。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)はこれからの物流には不可欠だ。
――M&A(企業の合併・買収)については。
斎藤 ファッション、医療・医薬関連など、当社がこれまであまり手掛けてこなかった分野を補うようなM&Aならば検討したい。相手となる企業の現在価値を求めるだけでなく、将来の企業統治を含めて総合的に判断したい。
記者席 しなやかさを持つ会社
「外柔内剛」。見た目は柔らかでも芯をぶれさせないことを信条に、日本最大の物流企業のかじを取る。日本通運はこれまで、陸・海・空それぞれに歴史と実績を積み重ね成長してきた。さらなる発展につなげるには、各部門の連携が不可欠。そのために必要なのが、斎藤社長のモットーとする外柔内剛のしなやかさだ。
会社の懐も深くし、多様な働き方を受け入れる素地ともなる。「従業員が幸せと感じられる会社に」は斎藤社長の願いでもある。悲願の売上高2兆円達成と従業員が幸福と感じられる会社づくりへ、日通は新たな一歩を踏み出す。
出張先では、土地土地のグルメに出会うのが楽しみ。リラックスには読書。健康管理に、週1~2回ジムで汗を流すことを欠かさない。
(略歴)
さいとう・みつる=昭和29年9月22日生まれ、62歳。山口県出身。53年慶大経卒、日本通運入社、米国日通財務部長、経理部長などを経て、平成21年執行役員東北ブロック地域総括兼仙台支店長、24年取締役兼常務執行役員、26年代表取締役副社長兼副社長執行役員、29年5月1日代表取締役社長兼社長執行役員に就任。(佐藤 周)