インタビュー

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【 社長インタビュー 】

安全運航に一層注力 来年、新造船2隻 投入 

2016年12月06日

商船三井フェリー大江 明生 社長

 

商船三井フェリー(本社・東京)は来年、大洗(茨城県)―苫小牧(北海道)航路の夕方便に新造船2隻を投入する。今後同航路の深夜便代替えや、苅田(福岡県苅田町)航路のデイリー化も目指す同社。今年6月に就任した大江明生社長は「安全運航を最重点課題に、利便性を向上させていく」とする。

――就任して6カ月、内航業界の印象は。
大江 外航に比べ内航業界は自然災害の多い日本中心の取引ということもあり、自主的なコストコントロールが一層難しい業界だと感じる。燃料、海象、気象、物量といった他律的な変動を受けやすい。
――厳しい環境の中、来年新造船を投入する。
大江 現行船では、8月などの繁忙期に乗用車用スペースが足りなくなり、貨物用にまではみ出すこともあったが新造船では、乗用車用スペースを拡大し、両方の需要にしっかり応えられるよう配慮した。
――港の発時間も後ろ倒しに。
大江 新造船投入による高速化により、大洗発の出港時間を1時間15分後ろ倒しし、午後7時45分に変更する。深夜便に流れていた貨物の一部を、夕方便で収められる上、営業範囲も広げられる。
――冷凍冷蔵用の電源設備も強化した。
大江 従来比の1.6倍に強化した。ニーズは高く輸送の根幹の一つだ。
――昨年のフェリー火災を受け安全体制も一層強化した。
大江 消火訓練や設備の見直しなどハード、ソフト両面からの取り組みを継続して進めている。また(火災が起きた)7月31日に全船、全役職員に対し、「心に刻む」というタイトルのメッセージを発信した。事故を風化させないよう、今後も毎年実施していく。

苅田航路、31年にデイリー化

――冷凍車の対策は。
大江 利用事業者に協力を呼び掛け、安全のため年に1回以上の冷凍機の点検と点検完了証の提出をお願いしている。安全運航は最重要事項だ。
――モーダルシフトへの需要は高まっている。
大江 物流の7割強を陸送が担う九州方面では、ドライバー不足の影響で今後海運の輸送需要が増加するとみている。31年の春には有明(東京)―苅田航路の船を現在の2隻から3隻に増やし、デイリー化する予定だ。
――今年は台風の影響も受けた。
大江 輸送のピーク時の8月に台風が重なり、36航海が欠航となった。生産地の北海道が受けた被害も大きく影響は今年いっぱい残りそうだ。
――難しいかじ取りだ。
大江 〝何ごとも諦めず粘り強くやりぬく〟がモットー。幸い新造船投入に向け、社内の士気も上がっている。まだ先の話だが北海道航路では、夕方便次に深夜便の代替えの検討も控えている。良い流れをつくりたい。
――PRに努める。
大江 大量に運べてCO2(二酸化炭素)も削減できるのが海上輸送のメリット。社会的には、トラックの自動運転のようなモーダルシフト以外の人材不足の対応もあるが、海上輸送への転換は投資としてシンプルだ。

Fさんふらわあとコラボし

――旅客にも訴求していく。
大江 新造船は個室比率を現行船の3割から5割に増やす。現在の旅客乗船率が平均30%強。オフシーズを中心に、10%増を目指したい。個室率アップで外国人旅行客にも、もっと利用してもらえると考えている。
――具体的には。
大江 商船三井グループのフェリーさんふらわあと共通ホームページをつくるなど、コラボを考えている。協力して旅の魅力を発信する。

記者席 粘り腰の経営で挑む

北海道航路の夕方便に新造船2隻を投入するのを皮切りに、船齢が高くなった船の入れ替え時期を迎えてる。船は1度建造すると、20年は使用するインフラ。将来を見据え、「サービス、ハード両面から船舶を充実させていきたい。社内の士気も高まっている」。
続く深夜便の代替え検討も慎重に進めていく。日本国内の物量全体は減っている中で、船へのモーダルシフトの流れは「確実に取り込みたい」。
「何事も諦めず粘り強くやる」がモットー。淡白な性格で弱点を補強する意味合いも。「趣味らしい趣味はない」と言いながら、「よく眠るのが好き。風呂にのんびり漬かり、年に1度は旅行にも出たい」と気分転換の手段はいろいろと用意している。(佐藤 周)