インタビュー

【 インタビュー 】
トップ自ら業界好きに 全日本トラック協会

2016年10月04日
星野 良三 会長
人材不足、労働環境改善、安全、業界の未来――。課題はさまざまあれど、トラック運送業界は下を向いてばかりいられない。「人材を呼び込むには、経営トップ自らが業界を好きにならなければ」と全日本トラック協会の星野良三会長に、業界のアピールポイントや今後の展望について聞いた。
――会長自身、「トラック運送業が好き」と公言。
星野 心から良い職種と感じる。人間の営みがある限りトラック運送はじめ物流はなくならない。トラック運送はドライバーの意志と責任で車を動かし、物を届ける「人間的な」仕事。私自身業界に入り58年たつが、昔と比べトラックの性能は良くなり、運転環境も随分快適になったのでは。
――ドライバーが主役になれる業界だ。
星野 そうだ。地方のトラック協会を回るたび、「自分の仕事に惚れることが大切」と各協会の幹部に話している。各経営トップにも訴えたいことだが、トラック運送に悪いイメージを持つのではなく、まず良い仕事と信じることが重要だ。
――トップ自身が誇りを持つことが大切、と。
星野 そう。「この業界はダメ」という言葉は禁句にすべき。「好きこそ物の上手なれ」という故事成語があるが、自分の仕事を好きになれば、経営もうまくいくという信念を持ってほしい。
――社会には業界に対する悪い印象が残る。
星野 「トラックは怖い」というイメージがあるのは事実。こうしたイメージを少しでも払しょくするには、安全・安心な業界であることを実績で証明するしかない。
――全国平均で死亡事故を1万台当たり2.0件に減らす目標がある。
星野 事業用トラックによる死亡事故件数は減少傾向だ。今後も事故撲滅を目指し、各都道府県で切磋琢磨(せっさたくま)してもらいたい。
――Gマーク(安全性優良事業所認定)の取得率・認知度向上も重要。
星野 全事業所のうち4分の1超が取得している。荷主からGマーク取得事業者が選ばれるようなPRも不可欠。認知度向上を図り、Gマークのデザインを施したラッピングトラックが全国で約150台走っている。
未来志向の運賃適正収受を
――安全は業界の魅力を高める大事な要素。
星野 事故をゼロにして家族が安心して送り出せる職場にすることが人材確保につながる。ドライバーの待遇改善も欠かせない。そのためには各事業者が原価計算意識を高め、未来志向の投資を考えながら、原資となる運賃・料金の適正収受に努めることが重要だ。
――行政、業界、荷主による取引環境・労働時間改善協議会が進む。
星野 長時間労働は人材確保のためにも解決すべき問題。荷主が改善の土俵に上がりつつあるという意味で協議会は意義深い。手待ち問題は荷主が主体にならないと解決できない。協議会の成果が社会全体に浸透し、手待ち問題のない世の中が当たり前になるよう、全ト協としても力を入れる。
――準中型免許創設に合わせ、全ト協では高校生へのPRを推進。
星野 業界の魅力や仕事内容を紹介するパンフレットの作成・配布に加え、理解を深めてもらうための「インターンシップ導入促進支援事業」を始めた。若年層を多く呼び込めるよう、各事業者の取り組みを全国に水平展開させていきたい。
――女性の活躍促進も人材確保の鍵。
星野 「女性が輝く社会の実現」を目指す政府には、ぜひ女性ドライバーが働きやすい環境づくりに向けた社会資本の整備を進めてもらいたい。全ト協としても「トラガール」を呼び込める業界の魅力づくりに注力する。
――女性の力を協会活動にも生かす。
星野 女性経営者による「女性部会」を組織化する動きが全国的に盛んだ。協会活動に女性の意見を取り込むとともに、女性経営者が集まり意識改革を図る場になることを望んでいる。併せて、本気で業界のことを考えてくれる若手経営者や青年部会の活発な情報発信にも期待したい。
(略歴)
ほしの・よしみ=昭和12年3月18日生まれ、79歳。東京都出身。35年明大経営卒、多摩運送入社。49年社長。平成18年東京都トラック協会長、21年多摩ホールディングス会長、23年全日本トラック協会長。(水谷 周平)