インタビュー

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【 社長インタビュー 】

顧客目線の航路づくり 新しい50年に向け

2016年09月20日

川崎近海汽船 石井繁礼 社長

 川崎近海汽船(本社・東京)は10月、静岡県清水市と大分市を20時間で結ぶ航路を開設する。人口減少やドライバー不足で内航海運に対するニーズが変わりゆく中、石井繁礼社長は「新しい輸送モードを提供したい」と決意を見せる。設立50年を迎えた川崎近海が進める新しい物流網の整備と今後の戦略について聞いた。

 ――4~6月期は減収減益。
 石井 航路開設に向けた投資と船腹整備など先を見据えた施策を進めている。今年は新造船の建設をはじめ40億円の投資を計画。収支的には厳しいものと覚悟している。会社設立50周年に当たり、次につながる年にしたい。
 ――10月3日、清水―大分航路を開設する。
 石井 10年前の平成18年に北九州航路を開設して以来。投入船も「北王丸」に決まり、社内の緊張も高まっている。利便性が認識されるまで1~2年はかかる。辛抱強く航路を経営していく。

デイリー化目標に荷物確保

 ――営業の手応えは。
 石井 順調だ。往復を平均すると開設一年目の目標である5割ほどの積載率が達成できそうだ。シャーシ化が進んでいない事業者へも、レンタルシャーシや関連会社と連携した集荷、小口貨物への対応といったユーザー目線のサービスを展開する。
 ――早めのデイリー運航につなげる。
 石井 安定的な荷物を確保することが重要。トラック事業者は、ドライバー不足と法令順守の両面から海上輸送にかじを切らざるを得ない状況だろう。利便性の高い航路として受け皿になることを願っている。
 ――顧客の声に応える。
 石井 高速道路との接続も良く、20時間で走り九州発の3日目朝には関東に到着できるのが新航路の利点。一朝一夕に結果は出ないと思う。総合的にコスト競争力があり、利便性の高い輸送方法というイメージを丁寧に伝えていきたい。
 ――北海道―岩手でもフェリー航路を新設する。
 石井 室蘭と宮古を10時間で結ぶ航路。既存の苫小牧(北海道)―八戸(青森県)航路の補完航路という位置付け。
 ――進ちょくは。
 石井 宮古港ではフェリーターミナルの建設業者が決まり、着々と準備が進んでいる。外国人旅行者など旅客の取り込みを含め料金設定をどうするか詰めている。

従業員一丸の総力戦で挑む

 ――地元の期待が高まっている。
 石井 両サイドの自治体、企業関係者の行き来が旺盛になっていると聞く。自治体も独自セールスを行い、積極的に取り組んでくれている。進出する以上は成功させなければならない。地元と一緒に盛り上げていきたい。
 ――航路開設は大きな投資だ。
 石井 企業体力がないとできない。従業員の心を一つに総力戦で挑む。
 ――安全も課題。
 石井 近年の新造船は大型で安定性が高い。だが最近は北海道に台風が上陸するなど、気象条件も変化している。一層気を引き締めて対応する。
 ――教育も重要。
 石井 機械を使えばトラブルもある。トラブル発生時の対応力が問われる。それには船員の教育が不可欠だ。冷蔵冷凍車の利用も増えているが、事前のチェックで危険が予想される車に対しては対応が必要になるだろう。
 ――航路を安定化させ次代の礎を築く。
 石井 先人がつくり上げたビジネスモデルに上積みし拡大させたい。4~5年は我慢し、事業規模拡大と収益性向上につなげる。いま事業環境は大きく変わりつつある。顧客ニーズに応えた航路を提供していきたい。

(略歴)
 いしい・しげのり=昭和24年11月17日生まれ、66歳。大阪府出身。47年神戸大経営卒、川崎汽船入社、平成14年取締役電力炭グループ長、17年常務、18年常務執行役員、21年4月川崎近海汽船顧問、6月常務、22年専務、23年社長。(佐藤 周)