インタビュー

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【 社長インタビュー 】

働きがいある職場目指し 料金収受、実現の核に 

2015年11月17日

千代田運輸 水野 功 社長

近年、深刻なドライバー不足が続く完成車輸送業界。不規則な労働時間など課題を残す中、千代田運輸(本社・東京都日野市)が今期経営の重要テーマに掲げるのが「働きがいのある会社づくり」。水野功社長は「従業員の労働時間を減らしつつ、十分な生活を送れる環境を整えなければならない」とし、現場の生産性向上と適正料金収受の両立を目指す。

――荷動きは。
水野 主力の完成車輸送は国内と海外で荷動きが分かれている。国内は公共事業の増加などに伴い販売台数が好調なのに対し、海外は苦戦している。特にタイ、インドネシアに加え、中国経済も減速しており、当面は国内向けの完成車輸送が伸びるのではないか。
――業績はどうか。
水野 平成27年4~9月期は、売上高と営業利益ともに前年同期比でほぼ横ばい。一方、通期の見通しでは減益を予想している。
――国内販売台数は好調なのに、なぜ減益を予想するのか。
水野 10月から協力会社の運賃を3%上げた。この分の料金は荷主からしっかり収受できていないが、輸送力を維持するにはどうしても必要だった。生産車を一時保管する「モータープール」費用も経営に影響を与えている。

仕事を見つめ直す取り組み

――モータープールのコスト負担も大きい。
水野 トラックは乗用車と異なり、車体を生産した後に架装を施す。だが現状では架装が追いつかず、車体を留め置く場所が必要になる。一部料金は負担してもらっているが、全てではない。繁忙期ほどコストが増える「逆ザヤ」が起きている。
――今期の重要テーマに従業員が働きがいのある職場づくりを掲げる。
水野 これまでは日々の業務に追われ、従業員が仕事を見つめ直す機会が少なかった。これを変えるため今秋から、業務前に「どうすれば短い時間で仕事を終わらせることができるか」といったことを考えさせる取り組みを開始。一人一人の生産性を高めている。労働時間が短くても十分生活を送れるよう、賃金の原資となる適正料金収受を進めなければならない。
――適正料金収受の取り組みが一層重要に。
水野 いまはメーカーだけが儲(もう)かる構図になっている。(安倍政権の経済政策)「アベノミクス」は、川上に立つ従業員の賃上げには成功した。だが、彼らを支える中小事業者には原資が十分行き届いていない。荷主は足元にも目を配り、現場がどんなことに苦しんでいるかを考えてほしい。
――車両メーカーの顧客を増やしたり、M&A(企業の合併・買収)によって事業拡大を図る考え方もあるのでは。
水野 キャリアカーの架装は各メーカー仕様になっている。展開するエリアも各社によって異なり、荷主を変えることは難しい。完成車輸送でM&Aの対象となる事業者もあまりない。

館内物流これから商機拡大

――一方、近年は業容拡大を積極的に進める。
水野 今期は館内物流事業で3億円弱の売上高を見込んでいる。5年後の東京オリンピック・パラリンピックを前に、大型の複合商業施設の建設が増えれば、新たな商機が生まれる。近い将来、同事業の売上高を5~7億円に拡大したい。
――設備投資ではどんな取り組みを。
水野 グループ会社を含め、今年度中に数台のキャリアカーを更新。修理費などの無駄なコスト削減につなげる。今後は新たな車載器も導入する方針で、ドライバーの動態や疲労度などをリアルタイムに管理することで、より安全な運行体制の構築につなげる。

記者席 仕事にやりがいを

この数年、〝人の育成〟に力を注いでいる。ドライバーの安全教育などに加え、社長自ら講師を務める幹部候補社員の育成も実践。今秋から次のステップとして、従業員が業務開始前に1度立ち止まり、仕事について考えさせる取り組みを始めた。
どんな仕事でも、成果が見えなくてはモチベーションが上がらない。新たな取り組みでは労働時間を減らすために、どうすれば生産性を向上できるかなどを社員同士で議論。考えて仕事をすれば、自分たちにメリットがあることを意識させる、
最終的に目指すのは、日本で古くから続く働き方の仕組みを変えること。「先輩が帰らなければ部下も帰れない雰囲気はおかしい」と水野社長。労働条件の改善を前進させ、従業員が仕事にやりがいを持てる会社づくりを進める。

(経歴)
水野 功氏(みずの・いさお) 昭和28年2月6日生まれ、62歳。神奈川県出身。50年慶大卒。イトーヨーカ堂社長秘書などを経て、61年千代田運輸入社、取締役を経て社長に就任。(小林 孝博)