インタビュー

【 社長インタビュー 】
顧客の声に耳傾け 新航路も視野に入れ

2015年11月03日
近海郵船 野崎 哲一 社長
今年1月から敦賀(福井県)―苫小牧(北海道)航路に3隻の新造船を投入した近海郵船(本社・東京)。船舶の大型化で「波動を吸収し、より安定した運航ができるようになった」と語る野崎哲一社長。常陸那珂(茨城県)―苫小牧への新造船投入や新規航路開設など、今後の展望を聞いた。
――足元の状況は。
野崎 上期は昨年の消費増税の影響からの回復が遅れ、足踏み状態が続いていた。だが、燃料価格の低位安定や北海道の野菜が豊作で期待通りの荷動きをしていることもあり、収益が上がってきた。通期では前年並みを確保する見通しだ。
ニーズにかなう新造船投入
――運賃はどうか。
野崎 いまは燃料価格下落や貨物量落ち込みで停滞している。顧客であるトラック事業者の運賃が上がらなければ船の運賃も上がらない。
――協調して取り組む。
野崎 トラック業界の運賃値上げ機運は良いサービスには対価が必要だとアピールする千載一遇のチャンス。陸運事業者とも協調できることは協調していく。
――今年日本海側に3隻の新造船を投入した。
野崎 安全運航のため、船齢18年をめどに代替えしている。大型化し、経済性に優れた船を投入した。車両積載が40%、電源供給が67%アップし、より顧客の要求に応えられる船になった。
――手応えは。
野崎 徐々に引き合いが増え、9月にはフル稼働する日が相次いだ。北海道と関西・中京圏、さらには中四国・九州圏を含む西日本を結ぶパイプとして重要な役割を果たせる。また安定航行や燃料節減についてもすでに投入の2隻のデータでは期待通りだ。
モーダルシフトの風とらえ
――モーダルシフトの機運が高まっている。
野崎 トラックドライバー不足が理由で追い風は吹いている。関西や九州では特に海上輸送見直しの機運が高まっているのではないか。北海道でも道東や釧路、網走などの釧網地区などで見直しが進んでいる。
――受け皿として役割りを果たしていく。
野崎 日本貨物鉄道(=JR貨物)などと、どう分担するか。各社の動向を見据えながらニーズに機敏に対応したい。
――需要に応える。
野崎 太平洋側、日本海側双方に航路を持っているのが強み。今後は常陸那珂―苫小牧を運航する2隻の船の代替えに取り組む。貨物動向を見据えながら今後2~3年をめどに新造船への代替えを検討する。
――新規航路については。
野崎 視野に入れている。フェリーやRORO船がカバーしていない地域を検討する。船社だけでは航路開設はできない。既存の寄港地に軸足を置き、関係者と協力しながら既存航路との相乗効果を出せる航路を選択する。
――あらゆる角度から検討する。
野崎 国内の貨物量は減少傾向だが、モノの流れ方が変わってきている。それにどう対応するかだ。現在航路が無いところは無いなりの理由がある。協調配船なども含め検討していく。
――社員の士気は高い。
野崎 新造船の投入は13年ぶり。進水式は全社員が3回に分けて見に行った。士気やモチベーションは高まっている。何より次世代につながる船として明るい未来を示す指針になった。
――顧客の声に耳を傾ける。
野崎 士気が高まっている状態だからこそ謙虚さを忘れてはならない。「おごるべからず」の精神で、より一層顧客に寄り添った営業に注力したい。
記者席 さらなる高みへ
「安全・安心が一番の基本」と、新造船を入れて浮き立つ社員の気持ちの引き締めを図る。しっかりした運航を続けるには各人の意識が重要。船が新しくなればさまざまな機能が追加され、安全性はより高まる。だが、最後は人。「一瞬の気の緩みが大事故を生む」。基本の繰り返しが大事だ。
〝当たり前のことを当たり前に〟の大切さを社員に説く。「一人一人が緊張感を持って、会社として成長し、さらなる高みを目指したい」
写真撮影は大の苦手。表情が硬く、はにかんだ調子がなかなか抜けない。だが好きなボートの話を始めたら、段々と緊張はほぐれた。風を受けて海上を走る気持ち良さを語る弾んだ声に。根っからの海好きなのだと知った。
(略歴)
野崎 哲一氏(のざき・てついち) 昭和30年3月21日生まれ、60歳。昭和53年慶大経卒、日本郵船入社。平成19年経営委員、21年常務経営委員、22年近海郵船物流(現・近海郵船)副社長、23年6月社長。(佐藤 周)