インタビュー
【 新年特集・特別インタビュー 】
企業成長に必要な〝リスキリング〟とは 自動化合わせ取り組みを 失業防止し新たな挑戦へ
2026年01月06日
ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 後藤 宗明 代表理事
従業員に時代の変化、顧客のニーズに合わせ新たなスキルを学んでもらう「リスキリング」が注目されている。デジタル化や自動化による失業を防止し、現在と異なる業務や事業に挑戦できる。リスキリングの先駆者であるジャパン・リスキリング・イニシアチブの後藤宗明代表理事は「庫内作業の自動化、自動運転が進みそうな物流業界でも取り組むべき」と話す。
――リスキリングとは。
後藤 時代の変容、顧客のニーズの変化に合わせ、企業が目指す変革や新たな挑戦を実現するため、従業員に必要なスキルを学んでもらうことだ。
――学び直しではない。
後藤 そうだ。福利厚生の一環ではない。日本では生涯学習が長年推奨されてきた。個人が必ずしも仕事に関係するとは限らないスキルを、帰宅後に学ぶ。だが、欧米ではスキルアップに近いアップスキリングをまず行い、今までの業務より進んだ技術を学ぶ。レベルアップしたのがリスキリング。新たな成長分野に関するスキルを習得し、新しい価値提供につなげる。
――企業主導で取り組む。
後藤 企業が対象者、習得してもらいたいスキル、学習時期・方法を決定する。労働時間内に学ばせ、企業が受講費を負担する。業務の生産性を向上して、余剰時間でリスキリングに取り組める環境を構築する必要がある。国や多くの自治体で費用の支援が行われている。
――学習方法は何が適切か。
後藤 スキルにより異なる。例えばコミュニケーションスキルを身に付けてもらうなら、1時間のオンライン講座より、対面で他人と話して助言を受ける方が有効。スキルの内容に合った正しい方法で時間をかけて学んでもらえば、どんな人でもスキルを習得できる。
米国でデジタル化進み注目
――リスキリングという言葉はいつから聞かれるようになったか。
後藤 2010年代から、米国の国際会議で聞かれるようになり、徐々に広がっていった。その後、16年には世界経済フォーラムが、企業がリスキリングに取り組むべきと提言した。
――なぜ注目されるようになったか。
後藤 当時、米国ではデジタル化が進む一方、業務を担える専門人材は少なく、企業がデジタルを業務の成長分野にするため、新たなスキルとして身に付けてもらおうとする動きがあった。同時に、AIやそれを備えたロボットの開発と自動化が進む中で、デジタル化以前から勤務する人の仕事の減少、いわゆる「技術的失業」の懸念があった。リスキリングは、デジタル人材の育成と技術的失業防止を目的に行われるようになった。
――物流業界でも必要。
後藤 単純で反復が多い庫内作業、一部のトラックの運転では、人手不足解消を目指し自動化の動きが見られる。自動化が進めば、庫内作業員、ドライバーが働きたくても業務が少なくなる。リスキリングは自動化が進んだ将来も、人間が同じ職種・業界で働き続けられるよう、企業が取り組むべき活動だ。配置転換や新事業の創出を円滑に進められる。
まず時代の変化知って
――まず何から始めるべきか。
後藤 各社の経営者が外部環境の変化を正しく知ることが、リスキリングを行う上での第一歩。外部環境の変化が分かれば、自社を将来どのように残したいか見えるようになり、正しい意思決定を行える。経営者が何のために学んでもらうのかを従業員に話すことができ、従業員が納得して取り組める。
――例えば。
後藤 自動化を実現する技術が米国を中心に進歩している。04年に公開されたSF映画「アイ・ロボット」には、人型ロボットが宅配会社の従業員として荷物を配達する場面がある。米国ではこの場面が20年ほどで現実になった。アマゾンが24年、米国で二足歩行ロボットによる宅配実験を開始したことが一例だ。
――遠い世界の話ではない。
後藤 SF映画で登場した新技術が業務で活用できるかは、将来を確認する上で重要な指標。ユーチューブ、インスタグラムでも自動化について紹介する動画がある。
物流でも残業削減など事例
――物流業界にも好事例が。
後藤 茨城県の桜井運輸は社員約20人の中小企業だが、リスキリングに取り組んでいる。桜井正孝社長が自ら学習した後、従業員にもデータ分析のスキルを学んでもらい、労働時間可視化とトラックの出庫時間最適化に取り組んだ。残業削減につながった。
――他にも成果があった。
後藤 桜井運輸はリスキリングを通じ、伐採された竹を竹チップパウダーと竹炭にする循環型事業を新たに手掛けることとなった。竹の消費量減少と伐採人材不足が課題だった。
日頃の対話でスキルを把握
――どんなスキルを学んでもらったのか。
後藤 製造から販売までのノウハウをオンラインで学んでもらった。運送以外でも稼げる手段を見つけることにつながった。茨城県でリスキリングに取り組む企業の最優秀賞に当たるベストプラクティス賞を24年度に受賞した。
――従業員が継続的に習得できる取り組みにすることが重要。
後藤 従業員が保有している資格、業務経歴、興味を持っていること、会社で挑戦したいことなどを調査する必要がある。全ての従業員が継続的に習得に励めるようにするため、いずれかに合致させる必要がある。
――欧米ではどう調査しているのか。
後藤 AIの普及が進んでいるため、「スキルズテック」と呼ばれるAIシステムを活用するのが一般的だ。従業員の職歴などをアップロードすると、習得しているスキルを自動で抽出する。日本の大企業でも昨年から活用の動きが見られる。
――中小では資金が少ないので導入が難しい。
後藤 経営者と従業員の日頃のコミュニケーションでも情報を得られる。話しやすい関係性構築が大事になる。
――スキル習得後、どうするかも鍵になる。
後藤 スキルを習得できれば、昇給・昇格するという条件を設けることが企業には求められる。新たなスキルを習得するには苦労するから、適切に評価する必要がある。スキルを業務で活用できる機会を提供することも重要になる。両方実現できれば転職による人材流出の防止を図ることもできる。
