インタビュー

【 社長インタビュー 】
顧客の需要、機敏に対応 さらなる前進目指し

2025年10月07日
川崎近海汽船 山鹿 徳昌 社長
ドライバー不足の対策として、改めて期待される海上モーダルシフト。この数年、フェリーを中心に徐々に利用が広がってきた。6月に就任した川崎近海汽船(本社・東京)の山鹿徳昌社長は「モーダルシフトへの期待の高さを感じる」とし、顧客のサプライチェーンの動向を見極めながらニーズをくみ取り、船隊整備や環境対応などを進めたいと先を見据える。
提案通じて顧客と関係強化
――就任の抱負を。
山鹿 来年60周年を控え、諸先輩、現在の役職員が顧客との信頼関係を構築し、強固な経営基盤を築いてきた。安定した財務基盤と素晴らしい人材もそろっている。新社長としての役目は当社をもう一歩前に進めること。顧客や社会のニーズに機敏に反応し、当社に任せて良かったと思ってもらえる企業を目指す。
――川崎汽船の出身。
山鹿 入社以来、コンテナ船事業に幅広く携わり、16年ほど海外駐在も経験した。川近はフェリー・RORO船以外に外航事業、内航不定期船、オフショア事業などを手掛ける総合近海内航会社。これまでの外航の経験も生かしながら、事業発展に尽力していく。
――この数年、海上モーダルシフトに対する関心が高まっている。
山鹿 海上輸送への期待は高いが、現在は有人トラック輸送でのフェリー利用が広がっている段階。RORO船へのシフトが本格化するのはこれからだろう。無人航送需要の取り込みのため、顧客の供給網の動向を把握し、機敏にニーズに応えることが重要で、当社としてできることを進めていきたい。
――受け皿として、需要にどう応える。
山鹿 当社は八戸―苫小牧(北海道)のフェリー航路に加え、常陸那珂(茨城県)―苫小牧、日立(同)―釧路(北海道)、清水(静岡市)―大分のRORO船航路を持つことが強み。海陸一貫輸送では川崎汽船グループの航走業者に加え、広く顧客のニーズに向き合い、連携を深めたい。GPSを活用したトレーラーシャーシの運用効率化も検討しており、そうした提案を通じ顧客との関係を強化する。
――サービス強化には体制整備も不可欠。
山鹿 安全・安心で安定したサービスは海運会社として譲れない使命。現在のみならず将来の輸送品質も担保するためには、組織体制の強化が欠かせない。必要な人材を確保するとともに、労働環境改善を進め、モチベーションを持って働くことができる職場環境を整備していく。
――そのためには適正コスト収受も必要。
山鹿 効率化などの企業努力は当然今後も進めるが、船舶の建造や運航に関わるコストは上昇している。働き方改革、環境対応を進める上でも費用がかかる。不可欠なインフラを守るため、社会全体で広く必要なコストの負担を求めていくことが重要と考えている。
環境・船隊はニーズ見極め
――川崎汽船とのシナジーをどう創出する。
山鹿 3年前に子会社となって以降も、一定の独自性・独立性を持ち、自律的に経営を行うことは以前と変わらない。当社は川崎汽船と同じ海運会社であり、共通の課題も多い。より高みを目指すため、それらの取り組みを強化していきたい。環境対応、DXなどでシナジーを発揮し、競争力を高めたい。
――次を見越した船隊整備も重要になる。
山鹿 一定の船隊規模の柔軟性を持ちつつ、計画的な船隊整備を進める。重要なのは顧客ニーズで、海上輸送の需要、今後一層重要性が増していくと思われる環境対応などにより、需要がどのように変わっていくのか、その時間軸がポイントだ。想定よりも早いタイミングで需要が出てくる可能性もある。そのような可能性も踏まえ、タイミングを考えていきたい。
記者席 相手への配慮忘れず
社長就任後、社員に四つのことを伝えた。安全運航、法令順守の徹底、自身の部署だけにこだわらず他部署や現場にも関心を持つこと、そして意を持って伝えることの重要性を求めた。
「相手に伝えるための努力、工夫をしなければならない」。これまで仕事をする中で、コミュニケーションを最も大切なことと心掛けてきた。モーダルシフトの必要性が高まる中、脱炭素化や船隊整備を含め、顧客の求めを最優先に今後の進むべき道を描く。
現在、本社オフィスを改装中。今秋にも工事が終わる見通しで、完成後は社員のモチベーションを高めつつ、各部署がより連携しやすい環境となる。新社長として、全社一丸となって需要に応え、会社をさらに前進させる原動力の役割を果たしていく。