インタビュー

【 社長インタビュー 】
MSニーズ結実の絶好機 輸送量拡大へ貢献度深め

2025年07月29日
全国通運 吉沢 淳 社長
全国通運(本社・東京)は、モーダルシフトに対する強い追い風を受け、鉄道輸送量拡大への取り組みを加速している。6月18日に就任した 吉沢淳社長は「全国各地の鉄道利用ニーズを具体化し、実現するための〝プロデュース〟を担うことが当社の役割」と話し、鉄道を基軸にしつつ、多様化する輸送ニーズへの対応力を増していく考えを示す。
――就任の抱負を。
吉沢 国が2023年の物流革新緊急パッケージで10年程度で(鉄道・内航の)輸送量倍増を目指す方針を掲げたこともあり、モーダルシフトや(鉄道とトラックなどの他モードを組み合わせる)モーダルコンビネーションを真剣に推進しなければならないとの機運が鮮明になっている。顧客、全通系の利用運送企業各社が抱える課題を一つ一つ解決し、ニーズを結実させていく絶好機。意欲満々で臨みたい。
――トラックドライバー不足の影響も背景に。
吉沢 例えば、関東圏内の近距離帯でも鉄道を使いたいとのニーズが増えている。視野を広げ、アンテナを数多く張って各地のニーズを捉えて具体化し、実現するための調整を含め〝プロデュース〟していくことが当社の役割になる。
JR貨物に刺激与える存在
――JR貨物との連携もさらに強める。
吉沢 鉄道輸送量拡大に向けて、貨物駅構内設備などのハード面やダイヤの制約があるのは事実だ。具体的な案件を持ち込み、実現するためには何が必要かをしっかりと伝えることで、JR貨物に刺激を与える存在になれればと考えている。
――中核事業の「モーダルシフト推進協議会活動」がますます重要に。
吉沢 現在、15の協議会が稼働している。当社が中心となり、顧客、利用運送企業、JR貨物などが一堂に会する場だ。課題解決力をさらに高め、従来に増して活動を進めたい。
――足元の輸送実績は。
吉沢 4月以降、前年を若干上回るペースが続いているが、満足はしていない。10年で倍増という国の目標を達成するには、案件を一つ一つ実現させ、少なくとも年間4~5%の輸送量増加を目指す必要がある。
31ftコンテナ順次稼働開始
――昨年度、44基の31フィートコンテナを新造。輸送量拡大の受け皿に。
吉沢 今夏から順次稼働させる。各地で顧客ニーズをつかんでいる利用運送各社を後押しする目的も踏まえ、鉄道輸送量拡大への貢献を主眼とした設備投資だ。まずは片道輸送のニーズを積極的に取り込みながら、帰り荷の確保で往復実車化を図り、効率的な運用を目指す。
――BCP対策として内航利用の拡大も図る。
吉沢 鉄道を基軸とした顧客のサプライチェーン維持のためにも、BCP対策は不可欠。自然災害の被害を受けやすい山陽線の輸送障害を想定し、西向きの船をより活用できる体制を整えていく。
――公共関連事業の陸送業務受注にも注力。
吉沢 業容を拡大し収益性を高めるためにも重要な柱の一つとなる。官公庁や自治体など公的機関へのアプローチを強めたい。業務を受注し続けることができれば、その収益を31フィートコンテナなどさらなる設備投資に充てられ、鉄道輸送拡大への貢献度を深められる。
――将来像をどう描く。
吉沢 鉄道を基軸としつつ多様化する輸送ニーズにも応えるため、トラック企業や内航船社との関係を広く構築していきたい。利用運送各社やJR貨物グループ各社が持つ機能を知り尽くした上で、顧客の相談相手として総合物流サービスを提案できる会社になることが理想だ。
記者席 Something New
「Something New(新しい何か)」。銀行時代の上司が口にした言葉で、今も仕事をする上での信条とする。「長年の取引でも、世の中や顧客、自社の現況も踏まえ、視点を変えて新しさを見つけることが大事。同じことの反復は仕事ではない」
利用運送企業200社余りによる全通系ネットワークは「地域に根を下ろし、きめ細かくニーズに応えている企業が集まっていることが強み。包括会社として、各社の事業発展に資するスタンスを大切にしていく」。
炭鉱町だった北海道美唄市に生まれ、10代からは横浜市で育った。相撲を好み国技館へ足を運ぶなどスポーツ観戦を楽しむほか、読書や映画鑑賞も趣味。かつては山岳小説を愛読した。直近で心に残ったのは、吉田修一の話題作「国宝」。小説を読み、映画も観に行った。