インタビュー

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【 インタビュー 】

自意識くすぐる〝格好良さ〟を 多様な人材が成長の糧 

2015年09月29日

明治大学 藤田 結子 准教授

 トラックは3K(きつい・汚い・危険)な職場で若者への訴求力が弱い。では、若者を呼び込むためにはどんな方策が必要で、何を改善すればよいのか。若者文化が研究対象で、学生の就職指導も行う明治大学の藤田結子准教授は「業界のイメージアップと、働き続けることができる仕組みづくりが必要だ」と指摘する。

学生の目には物流=運転手

 ――若者文化を研究している。
 藤田 海外に出て働く若者たちへのインタビューを通じて彼ら・彼女らのアイデンティティー確立を研究した。いまは1人暮らしの学生の生態調査などをしている。
 ――学生はトラック運送業をどう見ているのか。
 藤田 ゼミを受講している大学3~4の学生を対象にアンケートを実施した。中には物流を学んでいる生徒もいるが、全員が3Kのイメージを持っている。彼ら・彼女らは大学を出てマネジメント層として就職する確率が高いにもかかわらず、ドライバーの仕事しか思い浮かべていないことが特徴だ。
 ――それはなぜか。
 藤田 一つには、物流に対する知識がないことが理由。物流にはドライバーの他にも、マネジメントをはじめ多様な仕事があることを理解できていない。そのため、普段接する配達員などの仕事を想像するのだろう。
 ――物流=ドライバーのイメージ。
 藤田 それを変えなくてはならない。例えば広告業界も3Kだが、学生は雑誌やテレビなどを通じて良いイメージを植え付けられており、志望する学生が絶えない。彼ら・彼女らは3Kの現実を知っていたとしても、イメージに引きずられ就職することは多い。
 ――イメージを改善する必要がある。
 藤田 そう。加えて、働き続けてもらう仕組みづくりも大切。共働きが当たり前の時代。長時間労働だと、家族ができた時に会社を辞めてしまう。社員の家庭を大事にするといった情報発信は、今後有効なイメージ戦略になる。

経済的な成功を重視しない

 ――若者が重視するのは何か。
 藤田 彼ら・彼女らは親が豊かで経済的に欠乏していないことが多い。その結果、経済的な成功に価値を感じられなくなっている。彼ら・彼女らが気にするのは、自分がどう見られていて誰とつながっているなどという〝格好良さ〟だ。
 ――他人の目を気にする。
 藤田 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及し、誰もが自分をアピールできる。若者はボランティア活動が好きという話があるが、厳密に言えばボランティア活動をしている自分が好きという場合も多い。
 ――イメージをつくり出すのは。
 藤田 テレビだ。インターネットが普及しテレビを見なくなったといわれるが、テレビの影響力はまだ大きい。インターネットは深掘りはできても入り口にはならない。

女性活用を成長の突破口に

 ――物流企業はどうしたらよいか。
 藤田 例えば、女性が働くことを念頭に置いて仕組みづくりを進めてはどうか。長時間働けるか転勤できるかといったこととは別の評価制度の導入や、出産後も働き続けられるようにすることが重要だろう。
 ――女性が働き続けられる職場を前提に、これまでの働き方を見直す。
 藤田 女性が働ける職場づくりを突破口に、多様な働き方を受け入れる下地づくりをしていってはどうか。現代の日本のビジネスモデルは、男性が長時間労働し、女性は家で家事や子育てをするという前提で成り立ってきた。
 ――新しい仕組みをつくらなければいけない。
 藤田 これから生き残り成長する企業は、固定観念を捨て殻を破らなければならない。今後活躍するのは多様性を持った先進的な企業。そのためには、若者や女性たちのさまざまなモノの見方を取り入れていくべきだ。

(略歴)
 藤田 結子氏(ふじた・ゆいこ) 東京都出身。平成13年米国コロンビア大学社会学部修士課程修了。18年英国ロンドン大学ゴールドスミス校メディア・コミュニケーション学部博士課程修了。慶応大学などを経て23年、明治大学商学部准教授(社会学)。著書に『文化移民』(新曜社)ほか。研究分野は「若者文化」や「働き方と育児」など。(佐藤 周)