インタビュー

【 全ト協・事業者大会特集 特別インタビュー 】
情報だけで命守る難しさ痛感 物流は血液、止めないで

2024年10月01日
フリーアナウンサー
武田 真一さん
熊本出身のフリーアナウンサーの武田真一さんは、出演中の朝の情報番組について「肩の凝らないトークを通し相互理解や新たな発見、価値観が生み出せれば」と言い、NHK時代を振り返っては「災害報道では、情報と言葉だけで命を守ることができないことを実感した」と心情を吐露。物流業界のイメージを聞くと、「物流は経済を支える血液で止まってはならない。今こそ関係者の理解と協力が不可欠だ」と指摘、激励を惜しまない。
―レギュラー出演している情報番組「DayDay.」のコンセプトを教えてほしい。
武田 昨年4月からスタートした日本テレビ系の情報番組で、日々のニュースとともに、さまざまな生活情報、さらにはエンターテインメント情報など3本を柱に伝えている。番組のキャッチコピーはスタート以来変わらず「おしゃべり感覚で見られる爽快・情報エンタメトークショー」だ。
―政治・経済分野から生活情報、エンタメと幅広い。
武田 番組の前半では重要と判断したニュースを2、3本に絞り込んで深堀りする。生活情報では、VTRでまとめたものがほとんどだが「100円ショップで何が最も売れているか」「道の駅で最も売れているものは何か」といった、はやりや身近な情報を提供する。エンタメではスタジオにアーティストを、時には海外からも人気グループを呼びミニライブを行う。またスタッフがライブの現場に直接出向き取材・報告もする。
―実際、日々の出演者は多彩だ。
武田 基本はスタジオの私とお笑いコンビ南海キャンディーズの山里亮太さん、アナウンサーの黒田みゆさんの3人がMC(司会者)となって進行していく。「実用品」という言葉が適切かどうかは別として、視聴者に役立つ肩の凝らない情報番組作りにこだわり続けていきたい。
―ニュースを絞り込むのは難しい。
武田 番組の終了後、その日の夕方までにスタッフから「明日は、このネタとあのネタで行く」といった「お題」が送信されてくる。これを受け、自分の言葉で伝えるべく資料やデータなどを収集し本番に備える。番組自体は、毎朝6時55分ごろからの30分程度の打ち合わせから始まり、引き続き、ゲストや解説者らを含め簡単なリハーサルを行い、本番へ流れ込んでいく。
おしゃべり通し相互理解と発見
―資料の収集などに相当量の労力を注ぎ込まないといけない。
武田 大変な仕事だが結構楽しい。ニュースの本質に少しでも迫りたいし、視聴者に対し自分の言葉で話すことで、相互理解ができるというか、コミュニケーションを深める近道となる。そして何か変だぞ、という気付きが発見できる。
―以前、物流業界の現状を取り上げた。
武田 (ドライバーの労働規制強化に伴う)「2024年問題」を取り上げたが、資料収集や放送で多くの気付きをもらった。コストに見合った料金が収受できず、高速道路を走らずやむなく一般道を走る。また、荷物の積み降ろしをする際の待ち時間が長く、一方ではパレットの有効活用や規格統一の遅れなどから物流全体の効率化が進んでいない。
―33年間務めたNHKを辞めて新たな道を選択し、進んだ。
武田 アナウンサーとして独り立ちできる自信があったわけではない。ただ、50歳半ばになって、あと数年で定年となる年齢ともなれば、私に限らず、企業に勤めるサラリーマンは「定年までに残された数年間をどう過ごすか」とか「現状のまま働き続けていいのだろうか」などと自問自答するのではないのか。
―そして後者を選んだ、と。
武田 アナウンサーとして何か新しいものに挑戦したい気持ちが強かった。幸い、妻は私の退職に反対は一切せず、逆に「人生は一度きりなんだからやってみれば」と背中を押してくれた。
―NHK時代、思い出深いのは災害報道だったと聞く。
武田 11年3月の東日本大震災以降、局内では災害時に視聴者にどのような呼び掛けをしたらいいか、仲間と共に検討を続けていた。その出発点は「情報と言葉で命を守る」ことの難しさを痛感させられたこと。津波が田畑や家を襲う空撮映像を見た時、大きな無力感を覚えたし、言葉でそれを描写しても被災者に何もしてあげられない。
―熊本地震では「熊本県は私のふるさと」と呼び掛けた。
武田 私たちの立ち位置を明確に伝えたかった。「どこどこで震度いくつの大きな地震があった」とか「津波警報が出ている」と情報を伝えるだけではいけない。放送する側の人間が、本気で助かってほしいと思わなければ、相手に実際に身を守る行動を取ってもらうことはできない。ともかく、地震に限らず災害は日本各地で発生し、命は奪われ続けている。この状況が続く限り、放送する側として考え続けねばならない。
帰宅して不在連絡票にドキッ!
―物流業界のイメージはどうか。
武田 物流が経済を支える「血液」であることは間違いない。24年問題の報道でも分かるように物流が止まるようなことがあってはならない。だが現状のままでは、ストップしてしまう危機的な状況にある。物流企業の自助努力はもとより、荷主、消費者ら関係者全員が相互理解を図れるような努力が欠かせない。
―物流業界の応援をお願いしたい。
武田 今日頼んだ商品が明日には家庭に届くといった宅配便は便利過ぎるくらいだが、バックヤードで働くドライバーを含めた皆さんの苦労は半端ではない。私自身、帰宅して「不在連絡票」が入っている時、ドライバーに迷惑をかけてしまったとドキッとする。通信販売でも盛んに「送料無料」といった言い方がされるが誤解を招く。コストがゼロであるわけがない。
―今後も放送界で仕事を続けていく。
武田 今、本当に素晴らしい機会をもらっている。東京からのニュースはどうしても直球というのか、一番硬い部分になってしまいがち。今は全く違うおしゃべりが中心の情報番組だ。何気ない会話を通して相互理解や新たな発見、価値観を生み出す。引き続き、スタッフを含め、視聴者に役立つ爽快な情報番組となるよう、MCを担当する一人として全力投球していく。