インタビュー

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【 社長インタビュー 】

相互補完で飛躍を期待 日本郵便がトール買収

2015年07月28日

トールエクスプレスジャパン ニール・ポーリントン CEO

 日本郵便による豪物流大手トール・ホールディングス(=トール)のM&A(企業の合併・買収)は物流業界に衝撃を与えた。買収額は約6200億円。トールの社名や事業活動を維持する形でグループに迎え、国際物流企業へと変ぼうする。
 トール日本法人のトールエクスプレスジャパン(本社・大阪市、ニール・ポーリントンCEO=最高経営責任者)の前身はフットワークエクスプレス。その源流は戦後のトラック業界をけん引し、かつて西濃運輸、福山通運と共に「路線御三家」と呼ばれた名門・日本運送だ。日本郵便とトールエクスプレスジャパンは国内物流で事業の重複がなく、「互いに補える可能性は非常に高い」(ポーリントンCEO)という。今後の戦略を聞いた。

 ――日本郵便がトールを買収した。率直な感想は。
 ポーリントン 驚いた。買収は日本郵便、トールグループ双方にとって前向きな結果を生み出すと確信している。特に、当社にはより大きな結果を残すだろう。
 ――前向きな結果とは。
 ポーリントン 今回の買収で世界第5位の総合物流グループが誕生した。日本郵便は企業間の国際物流を成長戦略に描いている。先鋒を務めるトールはビジネス拡大の大きなチャンスを得た。
 ――トールエクスプレスジャパンのメリットは。
 ポーリントン 日本郵便の事業はBtoC、当社はBtoBで、事業上の重複はない。ノウハウを相互補完するよう人材交流や現場研修など前向きに進めたい。

総合物流モデルを日本でも

 ――日本郵便との協議は進んでいるか。
 ポーリントン 初期段階の打ち合わせを行った。営業やオペレーションの共通化などが議題に上がるが、詳細はまだ何も決まっていない。だが、買収完了から短期間で信頼関係を構築し、生産性ある議論があった。
 ――今後の進展に期待が高まる。
 ポーリントン 両社が持つ顧客の紹介を行った。BtoB、BtoCなど全ての物流をグループ一社で提供するビジネスモデルは、トールがオーストラリアで成功させた。日本でも同じようなビジネスモデルが成功する可能性は高い。
 ――社員にはどのように伝えたか。
 ポーリントン 今回の買収は前向きに捉えていると伝えた。動揺する社員はいなかった。むしろ、希望に満ちていた。

不採算整理で収益率を向上

 ――業績は右肩下がりが続いている。
 ポーリントン 平成26年6月期売上高は約485億8600万円。トールが参画した21年12月期は627億7600万円だった。減収の大きな要因は2つ。子会社だった九州産交運輸の特積み部門以外を26年4月、鴻池運輸に売却。2つ目は不採算の顧客を23年から順次、整理した。
 ――不採算顧客の整理は同業他社と比べ、早い取り組みと感じる。
 ポーリントン 当社は仕事量の適正化と利益率の改善を図った。不採算の顧客には値上げを要請。改善が見られない場合はやむを得ず取引を停止した。一方で、収益に見合う顧客には値上げ要請は行っていない。
 ――特積み事業は収益の柱だ。
 ポーリントン 適正運賃収受、新規顧客の開拓、既存顧客の拡大に集中している。特に、サービスレベルの向上は欠かせない。特定顧客には「VIPサービス」を始めた。専任担当者を配置し、全てのサービスを請け負う体制を整えた。
 ――どう差別化を図る。
 ポーリントン 適正な運賃収受の下、重量物や長尺物から小口まであらゆる荷物を扱う。長尺物や重量物は大きなビジネスと位置付けている。貨物が悪いのではなく、貨物に付けられた不適切な運賃が悪い。
 ――業績の見通しは。
 ポーリントン 27年6月期決算は収益率の改善が進み、明るい見通しだ。前身のフットワークエクスプレスからの社員にとって、久しぶりに朗報が聞けるだろう。トールエクスプレスジャパンの今後を大いに期待してほしい。

 記者席 歩みを止めない

 「日本郵便による買収がなければ、いまごろ私は退屈だっただろう」。来日して5年目。全国各地の現場訪問、収益率の改善などでリーダーシップを発揮。平成27年6月期決算見通しは「前身のフットワーク以来、良い結果が得られるだろう」と自信を示す。
 そのさなか日本郵便が2月、トールの買収を発表。驚きの知らせだったが、「当社にはポジティブ(前向き)な影響がより大きく発生する」と確信。短期間で日本郵便と信頼関係を構築し、次の一手を探る。
 休日にはランニング、国内の観光旅行などアウトドアを楽しむ。日本の四季の中で、秋の紅葉を特に好む。「紅葉に包まれる金閣寺がとても好き」。公私共に、歩みは止まらない。

(略歴)
Neil Pollington氏(ニール・ポーリントン) 1958(昭和33)年7月21日生まれ、57歳。英国出身、オーストラリア育ち。平成10年トール入社、22年フットワークエクスプレス(現・トールエクスプレスジャパン)CEO。(遠藤 仁志)