インタビュー

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【 新年特集 特別インタビュー・AIと人は共存できる? 】

考えるロボ 近未来に実現

2024年01月02日

慶応義塾大学 理工学部
栗原 聡 教授

物流現場の人手不足対策へAI、ロボット活用も求められる一方、労働集約産業から装置産業へと変化する可能性を前にして「仕事を奪われはしないか」と不安の声も聞かれる。AIと人は共存できるのか。AI研究を専門とする慶応義塾大学理工学部の栗原聡教授は「近い将来、ドラえもんのように自ら考え行動するAIが誕生するだろう」とした上で、「ロボットの目的を規定するのは最終的には人間。人間中心に発想することが豊かな共生の鍵になる」と話す。

「人間中心」の発想が鍵

―AIやロボットというと漫画やアニメではドラえもんのような親しみを持てる存在がいる半面、近年は未知への恐れを込めて語られる場面も増えた。

栗原 AIが人間の仕事を奪うという見方もあるが、かつて移動が馬車から自動車に変わった時も自動車製造をロボットが代行するようになった時も、仕事を失った当事者以外は「便利になった」とひとごとで済ませることもできた。ところが、近年のAIは言葉を話したり絵を描いたりと人間ならではの知能の〝本丸〟に迫っており、人々はもはや対岸の火事として無関心でいることができなくなった。その事実がAIへの過度なアレルギー反応を引き起こしているのではないか。

―そもそもAI=人工知能とは何か。

栗原 人間は、根源的には「死にたくない」と生き延びるために考え行動する。生存のために生物に備わった知能は、鳥やイヌやネコ、昆虫も持っている。近い将来誕生するだろうドラえもんのようなAIも、人間のように自ら物を考え行動する点で、チャットGPT(対話型人工知能)を含め今あるAIとは一線を画する。

―目的に従って自ら考える点がポイント。

栗原 アウトドアで重宝する十徳ナイフは多機能で便利な道具だが、ナイフにせよドライバーにせよどの機能が使われるかの判断は常に人間に委ねられている。対照的に、ドラえもんはのび太君を立派な大人にするという目的に従って都度自ら考え行動する。目的やモチベーション(動機)に従い人間のように考え行動するAIは自律性を持ち、あくまで道具にとどまるこれまでのAIとは区別される。

―自律性を持つAIが暴走したり人間を支配する心配はないのか。

栗原 「会社の利益を上げる」という目的だけを与えると手っ取り早く社員を解雇する可能性もあるが、同時に「社員の幸福度を上げる」という目的を与えることで、利益と社員の幸福度のバランスを追求しようとする。AIは人間が造るものであり、目的や行動を規定するのも最終的には人間自身だ。

―労働の現場でも同じことが言える。

栗原 例えば、農作業で重いモノはロボットが自分で持つが、軽いモノは「体力を維持するために」と人間に持つように言うとしよう。すると人間は「ありがとう」と感謝するかもしれない。自動運転車でも、AIが運転の楽しみを理解するようになれば、「この道は運転が楽しいから運転をあなたに代わろう」というやりとりがあり得る。ロボットが私たち人間を理解する方法も重要なAI研究のテーマ。ロボットが人間の世界に入ってくるなら人間中心でなくてはいけない。人間中心の発想をすることで、ロボットに仕事を奪われるといった疎外感も解消されるのではないか。

―栗原教授のAI研究の原点も、ロボットと人間のコミュニケーションにあった。

栗原 私自身「ガンダム世代」として機動戦士ガンダムのカッコ良さに憧れて育ち、大学時代にアニメの世界で描かれるような単純な操縦でなぜ複雑なロボットの動きが可能になるのか、人間との意思疎通の仕組み、人間のように物を考えるとはどういうことなのかと関心を持ったことが、AI研究に携わるきっかけとなった。

地方でこそ導入重要に

―自律性を持つAIはいつ頃登場するのか。

栗原 近年は技術発展のスピードが急速で、ドラえもんのようなAIが登場するまでにあと10~20年もかからないだろう。5~10年の間には登場し始めるとみている。

―共生は可能か。

栗原 昔テレビ放映された、SFロボット漫画が原作の「ジャイアントロボ」では、最終回にロボットが大作少年の命令を無視し、敵であるギロチン帝王を抱え宇宙へ飛んで自爆するが、当時、多くのファンが命令を無視して敵と共に散ったロボットに感情移入し涙したものだ。道具的なロボットはあくまで道具だが、自律的に動くようになった途端に人間は自我を認め感情移入してしまう。「たまごっち」のような乱数の入った簡単なプログラムでできたものにさえ、感情移入は起こる。自律的なAIが登場する世界では共生が可能になる。人間とAIが共生する社会は人間が幸福に暮らせるようつくられるべきで、単に効率重視の社会ではないだろう。

―日本人のAIやロボットに対する考え方は欧米人のそれとは違う。

栗原 欧米は一神教の文化圏で、神は最初に人間を造り、他の生き物と区別された存在と見なす考え方がベースにある。また、欧州は多くの困難を乗り越え人間としての自由を獲得した歴史的経緯から、ロボットを人間と同等以上には扱わないとも考えられる。結果、日本でのみ自律性を持ったA I が発展し、うまく共生し独特の豊かさを手に入れる可能性もある。

―社会の受容性の他にも課題はある。

栗原 まずはコスト。導入にも運用・維持にもコストはかかる。過疎化や高齢化が進む地方ほど、AIや自動運転技術が必要になるだろう一方で、地方の方が都市部よりもコスト負担力に乏しい。人がそこで暮らす以上、採算性だけを議論していては解決しない。水道、ガス、電気などのインフラと同じく、交通、物流は日本中にくまなく栄養を送るための血管。災害時も想定した、よりレジリエント(しなやか)な仕組みづくりが欠かせない。

―法制度も更新が必要。

栗原 自動運転を考えた場合に、道路一つ取っても日々状況が変化する中で100%完璧なプログラムを組むことはできないが、従来の日本の法制度では安全が保証されない限り導入が進まない。米国の場合、事故が起きても当事者たちが原因究明し、失敗を糧に未来に向けたチャレンジに参加していくことで責任を問われない社会システムがある。そうした仕方でないと自動運転などの社会導入はできない。日本も世界のAI開発競争に負けないためには、(短期間の開発を繰り返して製品開発する)アジャイル開発のような仕方で法制度を整備していくことが重要だろう。