インタビュー

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【 社長インタビュー 】

安全守り続けて100年 輸送日数、価格も魅力

2023年10月03日

近海郵船 関 光太郎 社長

 4月、創立100周年を迎えた近海郵船(本社・東京)。安全運航を最優先しつつ、利用者の声を基に時代に合ったサービスを展開してきた。太平洋、日本海の両面で南北を結ぶRORO船航路が特長で、関光太郎社長は「例えば、北海道航路は集荷から3日目配送が可能で、リードタイムも利用料も競争力がある。ぜひ活用してほしい」とアピールする。

 ―創立以来、守り続けてきた考えは。
 関 海運会社にとって一丁目一番地の安全運航を何より優先してきた。また、長い歴史の中で時代のニーズをつかみ、素早く柔軟に船種やサービスを変えてきた。節目ごとの諸先輩の勇気や柔軟性に加え、利用者の支えがあったから今がある。
 ―支えとは。
 関 当社は2000年代前半、東京、大阪だった北海道航路の本州側寄港地を、常陸那珂(茨城県)、敦賀(福井県)に変更。混雑の激しい都市部の港を避け、高速道路の利便性の良い地方港に移し、関東・関西―北海道間の輸送日数削減につなげた。一方、船社だけでは寄港地変更はできない。利用者のトラック運送企業から話を聞かせてもらい、協力があったからこそ実現できた。

多様な航路でBCPに貢献

 ―近海郵船のサービスの魅力は。
 関 RORO船で常陸那珂―苫小牧、敦賀―苫小牧間を運航する北海道航路は、いずれも集荷3日目に到着地で配送できるのが特長だ。本州発、北海道発のどちらも高い稼働率を維持している。安定した輸送日数とともに、利用料でも競争力がある。ぜひ活用してほしい。
 ―太平洋、日本海側の両面で南北を結ぶRORO船サービスも特長。
 関 北海道から敦賀―博多(福岡市)航路を経由し九州に輸送する場合も、4日目午前には配送できる。今秋には新しい岸壁に移ることで、敦賀―苫小牧船と敦賀―博多船の横持ちの距離が短縮され、よりスムーズな接続が可能になる。将来的には、同じ岸壁で2隻同時の着岸が可能になるようお願いしている。台風などの災害が発生しても、太平洋、日本海側にルートがあるので優先的に案内でき、利用者のBCP(事業継続計画)でも役に立てる。
 ―北海道で新たな産業の創出が期待される。
 関 半導体工場の整備により、北海道経済の活性化、調達物流や製品輸送といった業務拡大を期待している。当社は、熊本県の半導体工場建設で関連資材の輸送にも携わり、ノウハウがある。今後は石狩港(北海道)、秋田沖などで洋上風力発電の計画もあり、内航船社として役立てることがあると考えている。

利便性向上へサービス拡充

 ―ドライバーの残業規制を控え、トラック運送業界は24年問題を抱える。
 関 昨年下期から問い合わせが増えている。24年問題は物流基盤を変え得る問題で、一定量の貨物は内航に流れてくるのではないか。物流の展示会、国の表彰制度といった機会で内航の魅力をアピールしつつ、アンテナを高く張り、利用者の声を聞いていく。
 ―これまでも利便性向上に注力してきた。
 関 例えば、ニーズの高まる低温輸送では、運航する全ての船で電源設備を拡充した。港側も港湾局と連携し、ジェネレーター(発電機)の導入による電源確保を進めている。当社はウイングシャーシの貸し出しや、必要に応じて両端の輸送を手配するサービスも展開し、24年問題の対応でも貢献できる。
 ―船の脱炭素化は。
 関 船を投入すると、20年は使い続けることから、次の新船導入まで時間がある。船舶技術の開発、陸側でのエネルギー供給網の動向を踏まえて考えたい。

記者席 厳しい時 乗り越え

 2021年4月、社長に就任した。当時は、新型コロナウイルスの感染拡大が続き、現場回りはもちろん、出社すらままならなかった。「自社の船に行くことができないのは異常事態。とにかく何もできなかった」と振り返る。
 コロナ禍で、細心の注意を払ったのが乗組員の健康とメンタル管理だ。船内で感染者が出ると、大勢の乗組員を交代させたり、入港できない事態も起こり得る。寄港地での買い物も制限しなければならず、担当役員に小まめなコミュニケーションを指示した。
 今年に入り、ようやく全ての船を回った。そこで感じたのが「船という閉鎖空間の中でよく頑張ってくれた」との思い。現場を訪れることができる喜びを感じつつ、安全運航への決意を強くした。