インタビュー

【 インタビュー 】
第3次産業主導へ 「物流ビジネスは拡大」

2015年06月30日
愛知大学現代中国学部 高橋 五郎 教授
成長を続けてきた中国経済が転換期を迎えている。日本の国会に当たる全国人民代表大会が今年の経済成長率を3年ぶりに引き下げ、年率7%に設定した。中国経済や物流市場はどう変わっていくのか。中国経済専門家の高橋五郎愛知大学教授は成長率低下にこだわることの危うさを指摘。「産業構造の主役が製造業からサービス業に明らかに移っていく過渡期にある中で着実に成長を遂げていく」とみる。
――中国が掲げた7%成長目標をどう捉える。
高橋 平成24年ごろから成長率が降下したが、「7%まで落ちることはない」との見方が日本ではほとんどだった。中国自身が「最低8%堅持が生命線」と表明していただけになおさらだ。
――景気指標にも厳しい数字が並ぶ。
高橋 昨年8月、実際に北京など現地へ赴き、余った投資資金を不動産建設に使った事例を調査した。3カ月連続で下がり続けていたことが分かった。銀行や不動産会社の倒産続出を目の当たりにし、深刻な事態になっているのを実感した。
成長率減でも規模は膨大に
――中国経済は落ちていく一方か。
高橋 そうはならない。「中国経済崩壊」と言う人がいるが、間違っている。成長率の伸びをGDP(=国内総生産)の額に換算すると、中国の7%は約84兆円。日本の成長率を1%とすると約5兆円の規模にしかならない。7%に下がっても金額自体の大きさはとてつもない。
――数字自体に惑わされる可能性がある。
高橋 10年前の10%の伸びに比べてもいまの7%ははるかに大きい。たとえ5%成長でも絶対額は間違いなく増えている。その現実を直視したい。数字のあやに惑わされては判断を誤る。
――伸びていく余地がある。
高橋 過去30年間の中国のGDPストックは日本の半分しかない。豊かになりつつあるが、まだ途上。急速に増えてきている状況に変わりない。
――中国経済自体は転換期に来ていると見てよいのか。
高橋 成長率がダウンした背景として、産業構造の転換期に中国は入っていると考える。25年から第2次産業よりも第3次産業のGDPが上回ってきた。資金の回り方は旧来のまままで、ここが問題。
ノウハウ生かしシステム構築
――サービス産業がモノづくりに代わって中国経済を主導することに。
高橋 金融が真っ先に変わってきた。権力も製造業から移行して利権構造が変わる。
――物流事業も期待できる業種に。
高橋 市場性は高まっていく。サービス業のすそ野は広いが、物流業もさらに成長できる。中国国内での輸配送のシステム化はまだできていない。物流の近代化、改革は緒についたばかり。昔ながらの原始的輸配送を組み立て直すうえで日本の事業者はもっと貢献できるし、ビジネスチャンスも膨らむ。
――ご自身も体験。
高橋 現地で、コンテナで農産物を運ぶコールドチェーンの研究をデンソーと一緒に5年間続けている。道路インフラがさらに整備され高速道の渋滞も解消されれば、ネットワークによって遠い地域にも迅速に運べる。
――日本の物流事業者も商機が増えることに。
高橋 ドライバー教育レベルの高さを強みにしながら、これまで日本で培ってきた物流ノウハウを提供し、あるいは情報機能と合体させて中国にふさわしいシステムを共同開発することで事業を広げられる。
――アジアインフラ投資銀行(AIIB)が国際金融機関としてスタート。
高橋 アジア開発銀行(ADB)のりっぱな経験を持っている日本も参加すべきだ。補完関係を保ち、アジアのインフラ整備にもっと貢献できる。
(略歴)
高橋 五郎氏(たかはし・ごろう) 昭和23年8月4日生まれ、66歳、新潟県出身。平成3年千葉大大学院自然科学研究科博士課程修了。平成9年から愛知大教授。中国経済、中国農村経営学などが専門。NHKや民放ニュース・情報番組出演、新聞・著名週刊誌などのコメンテーターのほか、現在は中日新聞Webコラムにて連載を執筆。著書に「中国経済の歩み」「固定資産投資と貿易」など多数。(谷 篤)