インタビュー

【 社長インタビュー 】
社内変革へ果敢に挑戦 損益分岐点は引き下げ

2021年09月21日
太平洋フェリー 猪飼 康之 社長
6月、志甫裕前社長(現・相談役)からバトンを受けた太平洋フェリー(本社・名古屋市)の猪飼康之社長。厳しい経営環境下の船出となったが、「大きな変革できる機会」と捉え、損益分岐点を大胆に引き下げるよう社内にはっぱをかける。同時に、ドライバーの残業上限規制の強化を見据え、長距離輸送で海上輸送の存在感が高まっていることを好機とし、さらなる貨物の取り込みを図る。
「2024年問題」は追い風に
―6月、社長に就いた。
猪飼 身の引き締まる思いだ。大型フェリーを日々運航する中、安全面で支障がないかという意識から離れられない。加えて、新型コロナウイルスの感染が長引き、旅客部門を中心に大きな打撃を受けている。腹をくくり、打てる手段は全て講じる考えだ。
―前期の業績は落ち込んだ。
猪飼 2020年3月期のトラック航走実績は前期比5%減の9万7000台。区間別では、仙台―苫小牧(北海道)が同4%減、名古屋―仙台は同14%減、名古屋―苫小牧が同9%増だった。当初、新型コロナの影響はないとみていたが、景気低迷のあおりを受けた。旅客数は8万7000人と前期の4割にとどまった。自動車積載数も3万7000台と前期比で4割減少しており、厳しいと言わざるを得ない。
―貨物部門がけん引しなければならない。
猪飼 ドライバーの労働時間規制が強化される、いわゆる2024年問題は、長距離輸送を海上輸送にシフトする大きな後押しとなる。特に陸送可能な名古屋―仙台は、運行時間を考慮すると厳しい。そこで、荷主やトラック企業に環境負荷低減のメリットを組み合わせながら営業を展開し、積極的に需要を取り込みたい。
―厳しいコロナ禍で何を得られたか。
猪飼 ピンチはチャンス。フェリー事業の損益分岐点は高いが、少しでも下げる努力を惜しまない。例えば、貨物部門では海陸一貫輸送を提供するため、シャーシを約700台保有している。一括管理で稼働率を高めたり、顧客のシャーシを活用したりすることで、適正化を図り固定費を削減する。平時ではない環境だからこそ、社員一丸で変革を成し遂げたい。
需要は底堅い動向には注視
―新型コロナ終息後をどう見ているのか。
猪飼 相対的な物量に大きな変化はなく、貨物は現況が続くだろう。一般消費は実店舗よりECが上昇傾向で、雑貨の乗船が目立っている。また車関係でも、新車輸送が減ると中古車が増えるといった需要の底堅さがあり、マーケティングの動向をつかむための分析が欠かせない。消費が伸びれば、プラスの効果が生まれると期待している。
―19年に現3隻のリプレースが完了した。
猪飼 05年に就航した「きそ」が16年目を迎えているが、現段階で代替えを具体的に決めていない。50年のカーボンニュートラル(炭素中立)実現を見据えると、LNG(液化天然ガス)、アンモニア、水素などの燃料が候補に挙がるが、仮に技術面の課題を達成しても、コストや調達と障壁は大きい。まずは新型コロナ対策、社内の変革を最優先としていく。
―安全は事業の根幹。
猪飼 社是の第1番目に「安全最優先」を掲げている。職場の風通しを良くして社員同士の意思疎通を図り、ハラスメントを防止することで揺るぎない安全を構築する決意だ。
記者席 引き上げる覚悟
「大変な時期に社長に就いた」と本音をのぞかせるも、「落ちるところまで落ちた業績は引き上げるのみ」と覚悟を決めた。
地元の企業で街を創造しながら働きたいと熱望し、名古屋鉄道に入社。本社、ホテル、観光バスとキャリアを重ね、13年前から太平洋フェリーに在籍する。旅客部門から歩みを進め、「陸か海の違いだけで、例えば旅行会社の後押しで乗客を増やす営業は変わらず自然になじめた」と振り返る。時に若手にはホテルや観光バスの経験を助言し、企画を後押しすることも。
課題は山積する。リフレッシュは日課とする早朝40分のジョギング。「無心になり、ふとアイデアが浮かぶ」。そして経営へフィードバックする。「雨の日は理由をつけて休むことも」と笑い、息抜きも忘れない。