インタビュー

【 社長インタビュー 】
新船2隻21年度就航へ 「貨物需要は底堅い」

2020年01月14日
名門大洋フェリー 野口 恭広 社長
2021年12月と22年3月に新造フェリーを投入する名門大洋フェリー(本社・大阪市、野口恭広社長)。15年の就航船よりさらに大型化し、瀬戸内海を航行する船舶では最大級となる。12m換算でトラックの積載能力は現行船比1.5倍と大幅に広がる。野口社長は「貨物の需要は旺盛で底堅い」と判断を下したと言う。背景と戦略を聞いた。
トラ積載量は1.5倍に拡大
――21年度下期に新船2隻がデビューする。
野口 大阪―新門司(北九州市)航路の貨物、旅客の需要は今後も堅調に推移すると見込み、02年に就航した現行船の代替えを行う。新船は総トン数、トラック(12m換算)の積載能力などいずれも現行船と比べて1.5倍に大型化する。
――船価が上昇する環境下の決断だった。
野口 港湾設備の拡充を含め総投資額は200億円を超える。船型を大型化し貨物、旅客両面で収入を増やす営業努力が求められる。
――リリースでは物流部門の強化を軸に置く印象を受けた。
野口 その通り。モーダルシフトが進んで貨物の需要は底堅く、新船がデビューする21年度以降も進展すると判断した。現在、週央(火~木曜)を中心に満船状態が続き、乗船依頼に応えられてない。トラックの積載スペースは、1隻当たり現行船比約30台増加し、新船2隻が出そろえば1日当たり同計約60台増える。
――半面、週末の利用率は平日と比べて少なく、底上げが課題だ。
野口 需要は旺盛だが、土日に加え、月、金曜の便にも余裕があり、平準化は欠かせない。週末前後を含めた営業の強化が求められる。
――具体策は。
野口 潜在的な需要があると考えている。まずはフェリーに適合する貨物を開拓する。ドライバーのコンプライアンス(法令順守)の厳格化で長距離輸送に厳しさが増す中、海上輸送にシフトすることは安定輸送につながる。荷主、トラック会社双方にメリットがあると訴えていきたい。
居住性を向上 荷役時間短縮
――ドライバー専用室の定員を増やした。
野口 19年上期の有人率は47%に達した。シャーシによる無人航走が広がり一時37%まで低下したが、再び上昇している。そのような背景を踏まえ、専用室の定員を現行船比24人増やし80人とした。15年に就航した船舶よりも20人多い。
――設備は。
野口 専用室は全て個室化し、快適性と居住性の向上を図った。室内にはテレビ、机を整える。専用区画には喫煙スペース付きのサロン、浴場、洗濯乾燥機があり、公共スペースの広さには余裕を持たせる。乗船中、ドライバーが疲れた体をゆっくり休められるよう意識した。
――車両荷役の改善も実現する。
野口 各港での車両乗下船口を1カ所から2カ所に増やし、大阪南港ではサイドランプ(可動橋)の建設に着手する。15年の就航船に導入済みで、荷役時間は従来より約1時間縮まった。また来年4月をめどに稼働する貨物向けのウェブ予約システムでは、乗船する貨物や運賃などの情報を顧客と共有できるようになる。順次、対象を広げ、顧客満足度の向上を図っていく。
――今期の業績見通しは。
野口 19年3月期の売上高は92億6000万円で、貨物部門は全体の約6割を占める。今期は堅調に推移し、増収となる見込み。新船就航を契機に売上高100億円を達成できるよう努めていく決意だ。
記者席 幹線輸送を担う決意
今回、新船2隻の建造費は200億円を超える。この金額は15年に投入したフェリー2隻の総額より50億円上振れし、年間売上高では2年分を上回る規模だ。船社にとって代替えは宿命で、経営者は時期、規模など重い経営判断を下さなければならない。
フェリーは1度、就航すれば20年前後走り続ける。そのため今後20年間の動向を見極めなければならない。野口社長は大型化を決断した背景を「貨物需要の底堅さ」としたが、国内物流の長距離幹線輸一度に大量輸送できるのが魅力。さらに独自のサービスとして、荷役時間の短縮や乗船手続きの簡素化などを打ち出した。新造船2隻の船出がいまから待ち遠しい。