インタビュー

メインビジュアル

【 2020年新春特別インタビュー 】

リアルな関係が出発点 運ぶ価値をもっと表に 「魅力発信のコツ」

2020年01月07日

クリエイティブディレクター 箭内 道彦さん

 多岐にわたる活動で領域を超え、既存の概念を解体しながら、その全てを「広告」として表現し続けているクリエイティブディレクターの箭内道彦さん。「人や商品、サービスが持つ輝き=魅力にどう光を当てるかが大切」と語る。魅力発信の出発点は「リアルなつながり」を見つけることにあるようだ。

 ――広告の仕事をどう捉えている。
 箭内 広告することは「応援すること」。CMやポスターを作ること自体が目的ではなく、対象となる人や商品、ブランド、サービスの魅力をうそのない範囲で最大化して、いまだその存在を知らない多くのたちに届けたいというのが、僕の広告制作のスタンスだ。
 ――大切にしていることは。
 箭内 単純に頼む・受けるという関係で広告を制作するのではなく、依頼主と一緒になって商品やサービスの魅力を伝え、世の中を幸せに、豊かに、楽しく面白くしていくこと。打ち合わせや撮影を通じて人と出会い、新たな発見を分かち合うことを重視している。結果、商品が売れたり、ブランドの知名度・好感度が上がったりすることが重要なモチベーションになる。

輝く部分にどう光当てるか

 ――魅力発見のポイントは。
 箭内 ないものを創ることはできない。広告する対象にもともとある輝く部分に、どの角度から光を当てればよいかを、世の中の機運やニーズと合致する形で見つけることが大事だ。
 ――広告の対象との向き合い方も鍵に。
 箭内 僕は自分と広告する対象との関係性を見つけてから企画を作り出す。かつては自分と直接関係のある商品やサービスの広告しか担当できないと考えていた。ある女性ファッションブランドの広告を頼まれた際、発想を変え、「そのブランドの洋服を着て頑張る女性を応援することができる」と捉えてみた。分からないものでも見方を変えれば、自分とのリアルなつながりを見つけられると実感した。
 ――リアルなつながりが広告制作の出発点。
 箭内 そう。この時代に生きる自分と広告の対象、社会がどう関係しているかをまずはリアルに捉え、伝えたいことを一般化するためにグラフィックデザインや映像を通じて、多くの人たちと共有できる形に仕上げていくイメージだ。

言葉による共感が大事な時

 ――魅力を分かりやすく伝えるには。
 箭内 いまの時代は言葉が重要と思う。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や電子メールなどを媒体として、世の中全体が言葉に対して敏感になっている。多くの人たちが共感してくれるような言い回しやキャッチコピーが鍵を握ると感じている。
 ――人間像を描くことにも力点を。
 箭内 僕は広告にタレントを起用することが多い。彼・彼女たちの生き生きとした姿を捉え、広告を見る人に身近に感じてもらうことをテーマにしている。食品や飲料であれば、本番の撮影時に初めて口にしてもらい、その時の表情をそのまま生かすといったドキュメンタリー仕立ての広告を作ることも。商品やサービスと向き合う人間の魅力や可能性、美しさ、輝きを広告したいという強い思いがある。

1年に1回は考える時間を

 ――物流に関するエピソードは。
 箭内 2011年3月の東日本大震災後、故郷の福島で東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きた時、県沿岸部への物流が止まり、SOSを発信した自治体もあった。トラックが来なくなると生活が立ち行かなくなると痛感した。それまで物流は空気のような当たり前の存在で、トラックが走っていても何を積んでどこへ向かっているか想像することはなかった。
 ――物流に対する認識が深まった。
 箭内 物流について身近なつながりから考える時間が一年に1回はあってもいい。物流に携わる人たちが自分の仕事に誇りを持つことも重要だが、やはりサービスを受けるわれわれが感謝したり、物流の重要性を再認識したりすることが大切ではないだろうか。

それぞれの物流像聞きたい

――物流を広告するなら、どんな企画を。
 箭内 ドライバーや倉庫作業員、経営者を含め物流に携わっている一人一人に「物流って何ですか?」と聞いてみたい。それぞれの「物流 is 〇〇」を考えてもらえば、本人たちがこれまで気付かなかった魅力や相互の捉え方の違いを発見する機会にもなる。
 ――業界はドライバー不足が深刻。
 箭内 トラックをはじめ物流の仕事が持つ価値をもっと表に出していくことが必要なのでは。ドライバーや倉庫作業員に「物流師」や「物流家」、「物流士」といった専門性を感じさせる名称を付けてもいいかもしれない。
 ――若年層を業界に呼び込むことも課題に。
 箭内 いまの若者には、社会や人の役に立ちたいと思っている人が多い。物流が社会にどう役立っているかを見えるようにすれば、自分と物流と社会のリアルな関係が描きやすくなる。表彰制度をつくり、皆が目指したくなるヒーローやヒロインのような存在を顕在化させてもいいだろう。危険で過酷な仕事のイメージがあったとしても、隠さず、どういう対策を取っているかを含めはっきりと可視化すれば、物流業界を目指す若者が増えるのではないか。

物流なければ生きられない

 ――物流業界にメッセージを。
 箭内 23年間携わっている大手CDショップタワーレコードの「NO MUSIC,NO LIFE.」キャンペーンにあやかれば、まさに「NO物流,NO LIFE.」。物流がスムーズでなくなったり、止まったりすれば、僕たちは生きていくことができなくなる。時々でも物流のことを思い出して、感謝しながら届く荷物を受け取ることを心掛けたい。

記者席 新しい風、追い求め

 「得意な分野だけに関わっていると新しい風は吹いてこない」と取材を快諾。多忙な中、魅力発信について熱く語ってくれた。
 好きな言葉は「利他」。「自社の利益ではなく社会をいかに幸せにするかと考える企業こそが利益を生み出している時代」。相手を思いやることが活動の原点にある。
 東京五輪・パラリンピック公式文化プログラムの一環で、東北復興がテーマの「しあわせはこぶ旅」プロジェクトを準備中。10m超の人形「モッコ」が、東日本大震災で被災した岩手・宮城・福島の人たちのメッセージを預かり東京へ届ける。「物流とも重なる取り組み。東北の人々にとっても意義のある大会にしていければ」。新しい風を追い求める姿に、絶えることのない情熱を垣間見た。