インタビュー

【 日通の国内戦略 】
支店の大規模化で強靭に 現場の生産性向上も

2019年11月05日
日本通運 秋田 進 代表取締役副社長日本事業部門総括
日本通運(本社・東京、斎藤充社長)は4月から、5カ年間の中期経営計画「日通グループ経営計画2023~非連続な成長〝Dynamic Growth″~」をスタートさせた。成長する海外での売上を拡大しつつ、国内事業を強靭(じん)化しさらなる成長を目指す。日本事業の鍵を握るのは4月に代表取締役副社長に就任した秋田進氏。「支店の大規模化と従業員の待遇改善を進め、信頼される企業を目指す」と意気込む。
――日本国内全体を統括する立場に就任した。
秋田 各地域ブロック、支店、関係会社に加え、通運や自動車、国内航空など日本事業全般を総括している。10月には、国内支店を188支店から114支店に再編し新たなスタートを切った。
――支店再編の狙いは。
秋田 通運事業に由来する歴史から主要な駅に支店を配置してきたが、環境の変化により小規模な視点が多くなっていた。当社の変わらぬ価値観である「安全・コンプライアンス(法令順守)・品質」を担保していくためには、各支店に一定の業務支援スタッフが必要だ。
――小規模でそうした業務を行うことは非効率。
秋田 そうだ。支店の大括(くく)り化によって生産性を高め、ガバナンス(企業統治)と営業力を強化することが今回の目的だ。
――バックヤード作業の重複も多かった。
秋田 現場を支援する教育や事務作業も、小規模支店の少人数で行うよりも、支店を大規模化して一定数の人材を配置したほうが、より大きな成果を発揮できる。重複業務の解消により、他の業務へ人材を振り向け、営業力や現場力の強化を図ることができる。
5産業にエネルギーを結集
――力を結集する。
秋田 経営計画では、電機・電子、自動車、アパレル、医薬品、半導体の5産業を重点ターゲットとしている。小さなエリアでは、対象産業の顧客数にも濃淡があった。エリアを拡大することで、営業人材や経営資源を集中的に重点産業に注力できるようになる。
同一労働同一賃金、正面から
――4月から新人事制度もスタートした。
秋田 同一労働同一賃金に真正面から取り組み、働く人のモチベーションが上がる仕組みを整えた。賃金制度については、正社員と同等の仕事に従事していれば処遇を同じにした。また評価制度も刷新し、全員を役割りという共通のモノサシで処遇と連動させ、貢献した従業員に報いる制度とした。
――生産性向上につなげる。
秋田 一時的にはかなりの増コストとなるが、より高い目標を持って頑張る人を評価することにより、働く人がやる気を持って取り組むことで、生産性向上につながると期待している。
――国内経済は拡大しない。
秋田 だからこそマーケットでの存在感を増さなくてはならない。コスト面の競争ではなく、ネットワークやロジスティクス、プラットフォーム化など、付加価値を加味したサービスを提供し差別化を図る。その結果顧客の信頼を得て選ばれる企業となるように努力したい。
グループ会社、改革にも着手
――グループ会社の改革にも着手する。
秋田 各地域のグループ会社は、当社の現場を担う大切な存在だ。下期に各社の実態調査を行い、同一労働同一賃金に対応した制度を導入できるように検討していく。また時間外労働の上限規制についても、自動車運転の業務は猶予期間があるが、それ以外の業務もあるので、急いで改善を進める。
――国内ネットワークのあり方については。
秋田 総物流量が伸びない中で、効率化のためには業界全体で連携できるところは連携することが必要だ。人材確保の観点からも、休日確保や、安定してシフトが回る体制を構築することが必要だ。業界全体の課題に対しても、改善につながるようにリーダーシップを発揮していきたい。
記者席 国内強靭化の重責担い
現在進行中の中期経営計画の中に、「ジャンプの前にかがむ」と書かれている。長い歴史を持つ企業としてさらなる飛躍をするためには、企業体質を変革し、より強靭に生まれ変わらなくてはならないとの意味だ。日本で、その重責を担う。4月からスタートした同一労働同一賃金を含む社員制度改革や、10月の国内支店の再編は、変革の第一歩だ。「社員のやる気があがり、生産性向上につながることが理想的」。
日通の売上高の約半分を占める日本事業。〝かがむ〟状態からいつジャンプへと踏み切るか。「早い部分では、下期から飛びたい」。かじ取りに注目が集まっている。