インタビュー

メインビジュアル

【 社長インタビュー 】

SCの非効率を解消へ 業界横断の基盤構築で

2019年04月23日

F―LINE 深山 隆社長

 1日、食品メーカー5社が出資するF―LINE(本社・東京)が誕生した。目指すのは、従来にない踏み込んだ改善提案によるサプライチェーン(供給網=SC)全体の非効率の解消だ。「実現するのは単なる共同配送ではない」と深山隆社長。品質管理や貨物追跡など長年培った機能・ノウハウ・情報を強みに、「持続可能な物流のプラットフォーム(基盤)を構築する」と話す。

 ――食品物流の現場は困難に直面している。
 深山 人手不足などの環境の悪化は予想を上回る速さだ。多頻度少量に加え、荷待ちや手荷役、検品、仕分け、冷凍倉庫での作業などドライバーや倉庫作業員の負担は大きい一方、働きやすい環境づくりが先送りされてきたことも事実。物流業界の中で見ても、改善が急務と言える。
 ――そうした中で、食品物流で培った改善提案力を日用品や医薬関連物流などに拡大する。
 深山 2016年以降、北海道と九州で取り組んできた活動がこの4月から、全事業、全温度帯を統合する全国組織として改めてスタートした。常温加工食品に限らず、冷凍・業務用食品や日用品でもプラットフォームのモデルを拡大していく。
 ――プラットフォームとは何か。
 深山 メーカーの出荷に関わる仕組みづくり、受注・納品のルール化・標準化を出発点に、モノの流れを見直し非効率を排除して整流化を図るというもの。これにより、持続可能な物流競争力を実現する。単価の安さや瞬発的な集車力だけではなく、現場を預かるからこその着眼点と発想によるロジスティクス設計力と企画力、提案力で競う。メーカーや卸、小売り、外食など関係先と話し合いを重ね理解を得ながら、SCの縦の連携を深めることが欠かせない。

見える化通じ付加価値提供

 ――具体的には。
 深山 情報面は、旧味の素物流の物流システム「ALIS(アリス)」に統合する。運用面では、16年4月にメーカー6社による常温食品共配を開始した北海道で各メーカーの運用ルールの標準化、伝票の共通化、着荷主の条件整理を実施。18年には九州でも共配を開始した。リードタイムの延長といった受発注のルール化の検討も進める。
 ――目指すのは単なる効率化にとどまらない価値の提供。
 深山 ALISに蓄積した過去の繁忙期の物流データなどを加工してメーカーに示し、適正在庫を検討する際に活用してもらうことが一案。また消費期限や貨物追跡とひも付いた形で各エリアの在庫情報を可視化して、返品・廃棄ロスのような物流費として表面化しないムダも抑制できる。受け身に構えず積極的に発信していく。

新たな施設運用設計に挑戦

 ――設備投資についてはどう考える。
 深山 荷待ち解消のための予約システムなどさまざまな技術を試験し、良いものは早期に導入する。資金面でも、子会社単独ではできなかった投資が可能になった。18年11月、福岡アイランドシティに延べ床面積4万㎡超、保管能力120万ケースの共配センターを稼働。約13億円を投じて作業の安全性と生産性を両立させ、さらに、省人化・省力化の設備を導入した。
 ――新しい発想をカタチにした実験的施設だ。
 深山 フォークリフトによるパレットの上下移動が不要な自動ラックや、パレタイズロボットを備えた。作業員は、以前の施設運用に比べ6割程度の約60人。賃借物件を使い、汎用性の高い設備・運用設計をモデルケースとして、他地域にも展開していく。
 ――今期の位置付けは。
 深山 まずは季節波動を含め、どういったモノの流れになるのかを見極める年になる。規模を追求するよりは食品業界・メーカーのSCM(供給網管理)への貢献を第一に考えつつ、参加企業を増やし、事業拡大していきたい。

記者席 「人財」が成長の要

 会社発足を迎えた1日の朝礼では「人財」の開発・育成に一層力を入れていくことを強調した。企業の力の源泉である人は、「材」ではなく「たから」と。
 食品メーカー物流子会社3社を含む5社の統合で誕生したことから、異なる背景、文化、経験を持つ2500人を超える従業員が集う。「それぞれの違い、持ち味を尊敬し合い、融合して、新しいものをつくり上げる力としたい」。
 多様性は活躍の領域についても言える。管理・事務、ドライバー、倉庫作業に加え「AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)を理解し物流向けに開発・導入できる技術者も重要な役割を担う」。
 人に優しい現場づくりも進めながら、幾つもの壁が立ちはだかる物流の変革をどこまで推し進めていけるのか。注目される。