インタビュー

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【 社長インタビュー 】

新「きたかみ」デビュー シンプルに効率を追求 

2019年01月22日

太平洋フェリー 志甫 裕 社長

 太平洋フェリー(本社・名古屋市、志甫裕社長)は25日、仙台と苫小牧(北海道)を結ぶ「きたかみ」を30年ぶりに刷新する。志甫社長は全産業にわたる人材不足を背景に、船内設備を一から見直し「効率の良い船を追求した」と語る。利用者第一の視点も重視し、ドライバー専用室は完全個室化を実現した。

 ――待望の新船きたかみが25日、いよいよ就航する。
 志甫 現・きたかみは平成元年にデビューし、船齢が30年を迎えている。何が何でも代替えしたかった。現行船の安全運航をこれまで支えてきた現場社員、ドックの関係者には感謝している。
 ――コンセプトは。
 志甫 シンプルさに重きを置いた。人口減少が続く中、従来のような船の設計が妥当かがテーマだった。フェリー各社は近年、代替え時に大型化したり船内設備を豪華にしたりする傾向にあるが、あえて一線を画して効率の良い船を追求した。きたかみが運航する仙台―苫小牧間は、生活航路で地域密着の色が濃い。使いやすいサービスを提供する。
 ――北海道と本州間の物流をも担っている。
 志甫 北海道を発着する航路はモーダルシフトがほぼ完了している。従って、トラックの積載量(12m換算)は現行船と同程度の166台を確保した。同時に、トラックの有人率が高いため、船内でゆっくり休んでもらえるよう心掛けた。ドライバー専用室は完全個室化し、ベッドはエコノミーシングルと同クラスを用意した。サロンには喫煙室を設けている。

専用室は完全個室化を実現

 ――旅客部門のセールスポイントは。
 志甫 船旅を楽しんでもらう目的は不変だ。名古屋―仙台間も結び、観光を重視した「きそ」「いしかり」よりも、リーズナブルな価格帯を望むビジネス客がターゲット。今回、船室のグレードの種類を絞った。最上級のスイートルームや大部屋をなくした一方、相部屋ながら個室のように過ごせるエコノミーシングルを新設した。B、C寝台は2段ベッドだがプライバシーを十分、確保できるよう配慮している。

将来を見据えた体制を構築

 ――見直した背景に何がある。
 志甫 船は一度建造すると20年前後は走り続けるため、先々の環境を見越すことが求められる。人材不足は今後、ますます厳しくなると想定している。限られた人員の中で運営できる体制を目指した。

名古屋―仙台でMS進める

 ――今期の業績見通しは。
 志甫 平成30年3月期の売上高は約139億円だった。今期は昨年9、10月に台風が接近し欠航したことや、道内の天候不順で前半、農産物の輸送が不調だった。秋以降は荷動きが反転して順調に推移し、31年3月期の売上高は前期を上回ると見込んでいる。
 ――トラックで中・長距離の輸送力が低下する中、フェリーが果たす役割は大きい。
 志甫 名古屋―仙台間はモーダルシフトを進められる素地がある。運航ダイヤが1日おきで、物流企業から「使いづらい」との声があるのも事実だ。例えば往路は陸送で、復路はフェリーを使うといった複合的な輸送体系の構築を提案している。フェリーは定時制が高いと同時に、台風による欠航も事前に予測でき安定性がある。これらの点を積極的にPRし、実績を積み上げたい。

記者席 30年支えた人々に感謝

 「激動の平成をよく駆け抜けた」。現・きたかみの船齢は30年とフェリー業界ではまれだ。「20年を超えてから毎年、未知との遭遇だった」と、メンテナンスに関わった社員や協力会社に対して何度も感謝を口にした。
 平成時代は高速道路の無料化、船舶燃料価格の高騰と苦難の連続だった。さらに前回の代替えは所有する3隻がほぼ同時期だったが今回、減価償却の平準化を図るため「きそ」「いしかり」の順に進めた。結果、適齢期を越えてもなお現役で活躍したが、間もなく役目を終える。
 足元は固まった。陸送と海上輸送は距離別に役割を分担する共存共栄の関係と時代は目まぐるしく移り変わる。「次の20年を見極めて、新たなステップを考えなければならない」と誓う。