インタビュー

【 社長インタビュー 】
大阪―志布志、念願の新船 MSの追い風を生かす

2018年05月15日
フェリーさんふらわあ 井垣 篤司 社長
フェリーさんふらわあ(本社・神戸市、井垣篤司社長)が運航する大阪―志布志(鹿児島県)航路に15日、待望の新造船が就航の日を迎えた。法令順守の対応やドライバー不足でひっ迫する、南九州の物流にとっての生命線だ。井垣社長は今後、EC(電子商取引)市場のさらなる拡大を見据え「(九州をはじめ)地方の物流が大きく変わる可能性を秘めている」とし、確実に需要を取り込む戦略を描く。
顧客や関係者の協力に感謝
――15日、新船「さんふらわあ さつま」が船出を迎えた。
井垣 新造船は大阪―志布志航路では4半世紀ぶり。当社にとっては、平成21年に旧船社3社再建のため事業統合して以降初。これまで高速道路料金無料化政策の影響で、経営環境は厳しかった。長年の地道な収支改善を経てやっとたどり着いた。
――建造に至るまでの経緯は。
井垣 24年に検討に入り、翌25年に決断した。今夏にデビューする姉妹船「さんふらわあ きりしま」と合算した船価は、会社全体の1年間の売り上げを上回る。船は一度、就航すれば20年程度使い続けなければならず、顧客をはじめ関係各所の協力が得られなければ実現しなかった。20年後の国内は、少子高齢化が確実に進んでいる。旅客、貨物両部門で知恵を絞らなければならない。
EC拡大で地方は変化する
――貨物部門はどうか。
井垣 モーダルシフトの風は、建造を決断した約5年前と比べると予想以上に強く吹いている。同航路は南九州の物流には欠かせず、特に志布志発上り便は平日を中心に満船が続いている。そこで、トラック(13m換算)積載能力は従来比約12%増やすと同時に、ドライバー専用スペースの居住性を高めた。今後、EC市場の拡大で、地方の物流は活況を呈す可能性があり、先手を打ち需要を確実に取り込みたい。
――南九州の需要が生まれる。
井垣 ネット通販の拡大が進むと、地方にストック拠点を設けなければならない。九州の物流拠点は内陸部の鳥栖(佐賀県)に一極集中しているが、東九州自動車道をはじめ高速道路の整備が進んだ結果、優位性はこれまでと比べて薄れているのではないか。例えば、関西発着のフェリーを生かし、東九州地区に拠点を新設する戦略が浮上しても不思議ではない。
――フェリーへの期待が高まってくる。
井垣 BtoCは翌日配送が当たり前で、ドライバー不足が顕在化している。将来的には翌日配送を維持するのが厳しくなるのでは。受取日時に余裕が生まれれば、フェリーの出番だ。
――志布志港へのアクセス改善も進む。
井垣 鹿児島市と直結する東九州自動車道が隣接の鹿児島県鹿屋市まで開通。2年後には志布志までつながる見通し。また、宮崎県都城市と結ぶ都城志布志道路の建設も進展し、利便性はより一層高まっている。
――旅客部門ではスィートルームの新設など目を引く。
井垣 気軽に非日常空間を楽しめる「カジュアルクルーズ」をテーマに打ち出している。これまで出港時のテープ投げ、船内イベントの強化、食事改善などソフト面の演出を行い、リピーター客を獲得、口コミを通じて着実に利用客を増やした。今後はハードの充実で、初のスィートルームから安価に利用できる部屋と豊富なバリエーションを武器に集客を図りたい。
――残る航路の行方は。
井垣 急務は船齢が20年を超えた大阪―別府(大分県)航路。既存船は全長153mと小ぶりで、代替え時の伸びしろは大きい。今回の新船就航の成果は今後の建造に向けた試金石となる。
記者席 成果を求めた10年
商船三井から事業再生を託され平成20年に転籍して以来10年がたった。これまで以上に激しく変化する経営環境の中、社員を叱咤激励してたどり着いた初の新造船は感慨深い。「商船三井時代は疑問を投げ掛けていた航路。まさか建造する立場になるとは」と笑う。
代替えは船社の宿命。そのため経営基盤となる人材育成は心血を注ぐ。「時代を読み取る力、対応する力は欠かせない」と言い、時に厳しく議論を戦わせ結果を求めた。その姿勢は今後も変わらない。
そして今春、商船三井執行役員を兼務。「まさか」だったが、現場で培った経験をグループが成長する原動力に変えると意気込む。