インタビュー

【 社長インタビュー 】
変化を捉え成長へ 航路開設で利便性高め

2017年09月12日
川崎近海汽船 赤沼宏 社長
川崎近海汽船(本社・東京)の社長に6月、赤沼宏氏が就任した。同社は、清水(静岡市)―大分航路や平成30年の室蘭(北海道)―宮古(岩手県)航路など物流の変化をいち早く捉え新航路開設に取り組んできた。赤沼社長は「変化を敏感に捉え素早く決断し、成長につなげたい」と意気込む。
――社長就任の心境は。
赤沼 海運業界は厳しい経営環境下にある。プレッシャーを力に変え全力で職責を全うしたい。昨年、清水―大分のRORO船航路開設など新規事業に着手した。着実に売り上げを伸ばして企業成長につなげたい。
――初の生え抜き社長。
赤沼 外航の景気が悪い中、内航をどう伸ばしていくか考えなければいけない。昭和50年の入社以来、培ってきた経験と能力を生かしたい。
年度中にデイリー化目指し
――清水―大分航路の現況は。
赤沼 有人トラックが中心の九州では、シャーシを利用した無人輸送への転換促進が課題だ。労務管理の強化や人手不足で、モーダルシフトの風は確実に吹いている。大手荷主からの問い合わせも増えている。
――デイリー化を望む声が大きい。
赤沼 定曜日・定時発着が完成し、初めて海上輸送を利用するメリットが出てくる。30年3月中をめどに、もう1隻船舶を投入し、デイリー化を実施することとした。
――室蘭―宮古航路の開設が6月に控える。
赤沼 ドライバーの休憩時間を確保するために、中距離航路へのニーズが高まっている。同航路は、1日1往復で運航時間は10時間。航海中にドライバーは十分な休憩が取れる。首都圏からの宅配貨物や冷凍食品、北海道発の活牛や羊蹄山麓の野菜などの荷物が期待できる。
――既存の苫小牧(北海道)―八戸航路との相乗効果も。
赤沼 苫小牧―八戸航路は、1日4便で利便性の高い航路。曜日と時間によっては利用者が集中し、断らざるを得ない状況だ。新航路で選択肢が増え、より利便性は高まる。
――東北発の貨物も増えている。
赤沼 盛岡や北上など内陸部での貨物が増えている。道路の整備が進めば宮古―仙台間が2時間短縮されて3時間でつながる。今後の可能性も大きいのではないか。
環境規制にLNG船も検討
――SOx(硫黄化合物)規制など環境規制が強まっている。
赤沼 除去のためのスクラバー設置は、高コストで輸送スペースの減少も招く。低硫黄燃料油が安価で安定的に供給されるスキームづくりも必要だが見通しは不透明だ。以前行っていたLNG(液化天然ガス)燃料船の研究を再開させる。
――航路持続には安定的な会社経営が不可欠。
赤沼 バランスの良い経営を心掛けている。当社の歴史を振り返っても内航が低調な時は、外航がカバーしてきた。外航が不調な現在は、内航・フェリーを強化して取り組みたい。
――大切なことは。
赤沼 顧客が何を考えているかを先読みし、早めに決断することだ。東京から茨城港への寄港地切り替えやコンテナ船をやめてシャーシに対応するなど、チャレンジ精神が当社の持ち味。これからも生かしたい。
――社員一丸で取り組む。
赤沼 各部門の社員がスペシャリストで、相談を受ければすぐに応えられる。将来を見据えて勝算のある事業に取り組み、収益性を高めていきたい。
記者席 顧客の声に耳傾け
同社初の生え抜き社長。外航を取り巻く経営環境が悪い中の抜擢に、「重圧を感じている」。
石井繁礼会長と共に、清水―大分航路や室蘭―宮古航路など新航路の開設に尽力。現地で高速道路を実際に走り、使い勝手を確認するなどユーザー目線を忘れない。「現地に向かい、顧客の声に耳を傾けてきた」。バトンを受けたいま、安定運航への思いは強い。
趣味は思いつかないというほど仕事一筋。落ち着いたら昔好きだった「天体観測と写真を再開したい」。