インタビュー

【 社長インタビュー 】
新造船投入で利用促進 「きたかみ」を刷新へ

2017年09月05日
太平洋フェリー 志甫 裕 社長
名古屋―苫小牧を航路とする太平洋フェリー(本社・名古屋市、志甫裕社長)は平成31年1月の就航に向けて、苫小牧―仙台を結ぶ新船「きたかみ」の建造を進めている。現行船が平成元年10月に同航路に就航して約30年が過ぎた。新船に関し「利用者が使い勝手の良い船を目指したい」と志甫社長は話す。利用者の視点を重視した新船について聞いた。
――今期の滑り出しの状況は。
志甫 4~6月、貨物は堅調を維持しており、名古屋―仙台間については前年比で2%増となった。運送会社のトラックドライバー不足で、フェリー利用が増えモーダルシフトが少しづつ進展しているのではないか。長時間労働改善への取り組みが運送業各社で進んでいることも、要因かもしれない。
――堅調さを7~9月につなげたい。
志甫 昨年のような大型台風の直撃がなければ、農産物の収穫量も出荷量も鈍くならずに売上高は順調にいく。
個室スペース優先した造り
――さらなる利用促進のため、平成31年1月に新「きたかみ」を就航する。
志甫 現在のきたかみと同じ規模。全長192m、全幅27m。総トン数は約1万4000トン。積載車両数はトラック166台、乗用車146台を計画している。
――コンセプトは。
志甫 新船が運航する苫小牧―仙台間は、観光路線というより、人々の生活を支える路線。名古屋―仙台間も結ぶ、観光を重視した2隻「きそ」「いしかり」に比べ、使いやすさに重点を置いている。このため、快適な空間の提供とプライバシーを優先して個室を約3倍に増やす。
――利用客へのセールスポイントはどういった点か。
志甫 豪華なスイートルームや2等船室といった大部屋をなくす一方、現在は配置していないシングルルームを設ける。カプセルタイプの寝台は継続する。個室スペース優先のため、旅客定員は現行船よりも約2割減となる。ドライバーズルームは完全個室化を図り、利用者のために船でゆっくり休める空間を確保した。
――省力・省人化の取り組みを進めている。
志甫 レストランなど船内営業体制について、ハード・ソフト両面の充実で、より効率的に運営する手段を検証する。少ない要員で対応できるかを確認する。貨物部門の荷役業務については具体化していないが、IT(情報技術)を導入した省力化を検討している。
社会的な要請に応えていく
――平成32年のSOx(硫黄酸化物)排出規制への対応はどうする。
志甫 規制値を下回る硫黄分0.5%以下の適合油を使用することで対応する方針だが、詳細はまだ検討段階。
――フェリー事業にはさらなる展望がある。
志甫 これから少子高齢化で、人口は減っていく。輸送サービスの担い手も減少することが予想される。こうした状況が迫る中で、モーダルシフトへの社会的要請に応えていかなければならないという自覚を持つ。フェリーは、多くの人を支える公共輸送機関と認識している。
記者席 安全に謙虚であれ
今年6月、社長に就任。あいさつ回りで多忙だった。「社長と呼ばれることが照れくさい」。話をする際、相手のリアクションがこれまでと違うことに対し、「言葉に注意しなければ」と気持ちを引き締めた。
昭和54年に名古屋鉄道に入社し鉄道事業に携わり、平成20年に名鉄グループの太平洋フェリーに転身した。輸送サービス業務に関わる上で、多くの人命を預かってきた自負から「安全に対して謙虚であれ」との信念を持つ。「安全に絶対はない。人間に絶対はない」
日々、安全・安心を守り抜く社員への信頼は厚く、「社員満足度をさらに向上させたい」とする。「社会に貢献している意識を持ち、自身の働きがいにつなげてほしい」