インタビュー

【 社長が語る 】
新技術へ提携、必要 トヨタと物流研究も

2017年07月18日
日野自動車 下 義生 社長
5日、日野自動車(本社・東京都日野市)の下義生新社長は記者懇談会を開催。不足するメカニックへの外国人採用や、物流全体を見直すために親会社トヨタ自動車と共同で始めた「物流ワーキング」について説明。将来の技術開発に向けては、コスト抑制の観点からも「思いを同じくする仲間とのアライアンス(提携)が必要になる」との認識を示した。
――就任前の1年間、トヨタで学んだことは。
下 強く感じたのは時代の変化への危機感。従来の経営・運営のやり方ではダメだという意識の下、カンパニー制移行、やらないと言ってきたEV(電気自動車)開発の着手、果敢な提携と、大いに刺激を受けた。商用車の世界はさらに変化が激しくなるとみている。
メカニックに外国人を養成
――日野が掲げる「トータルサポート」に、整備士不足は最大の課題。
下 当社の全世界保有台数は約160万台で、日本国内が約85万台。このうち3割ほどしか日野の販売会社に入庫はないが、それでも作業をこなすのに手いっぱいの状況。拠点改修・新設、小型トラック専用レーン導入といった工夫と併せ、整備士学校への教材提供を実施。フィリピンを中心に外国人の整備士養成も、一部販社で始めた。
――運送業界ではドライバーが不足している。
下 モノの流れを最初から最後まで俯瞰的に捉えようと、トヨタ自動車と日野で物流ワーキングを発足し研究を始めた。例えば部品納品時の待機時間のような非効率がまだ残る。物流会社の現場に入らせてもらい、何に困っているか自ら実感しながら、問題解決に乗り出した。販売・生産時期のずれにより完成車置き場のさらに中間置き場が必要な状況があり、ワーキングのグループ分けの一つに完成車物流も設けた。
――他社との提携をどう考える。
下 提携に基づく開発プロセスにはある種の非効率が伴う。どちらかの技術が高い場合、もう一方が技術を高めていき両方が高い状態でさらに良いものが出来上がるが、この間のプロセスが当社は不得手。経験が乏しいためで、さまざまな分野で中堅クラスの人材が経験を積めるよう、トップとして会社の方向性を示しながら、チャレンジへの意識付けを図っていく。
――どのような提携があり得るのか。
下 EVなどこれからの先進技術に関し、思いを同じくする仲間と提携したい。技術・サービス内容によっては、他社や欧州メーカーに一日の長があるものも。今後トヨタグループ単独では生き残れないし、商用車メーカーとしての仲間づくりが必要になる。提携のメリットは補完関係だが、ジェイ・バスや隊列走行で協業関係にあるいすゞ自動車とは、部品も商品もほぼ重複しており、提携するのであれば新技術開発や事業領域の部分になるのではないか。仲間づくりはオープンに展開していきたい。
――新技術投入のタイミングは。
下 小型EVトラックは、2025~2030年には市場投入するイメージで開発に取り組んでいきたい。大型トラックについては、トヨタグループとして燃料電池車も検討していくが、エネルギー密度や積載効率、コストの点でまだまだディーゼルの果たす役割は大きいだろう。
日野工場跡地は発信拠点に
――最後に、日野工場跡地の活用方法を。
下 8月で中型ラインも古河工場に移り、移管はほぼ完了する。跡地利用の方法は未定だが、グローバル日野として、個人的には特にトータルサポートの発信拠点にしていきたいと考えている。
記者席 久々の「生え抜き」
トヨタグループ入りで平成13年、社長にトヨタ出身の蛇川忠暉氏が就いて以来、16年ぶりのプロパー社長。大型観光バスの初代「セレガ」など商品企画、社運を賭けた北米専用車のプロジェクトリーダー、米国日野販売上級副社長など、多岐にわたる業務を経験。トヨタではコーポレート戦略に携わった。
市橋保彦会長(前社長)も注力した「トータルサポート」の方針を引き継ぎ、就任直後の社内向けメッセージでもサービスを強化点に挙げた。「10年、15年車を使ってもらう中で、確実にビジネスパートナーになっていく」。テレマティクス(車載通信システム)を含めた進化の必要性を呼び掛ける。
「ならひのなきを極意とする」が座右の銘。形を持ちながら、形に縛られない。変化対応の道筋づくりに注目。
(略歴)
しも・よしお=昭和34年1月28日生まれ、58歳。東京都出身。56年早大理工卒、平成17年中央大院総合政策研究科博士課程終了、昭和56年日野自動車入社、北米事業部長などを経て平成23年執行役員、24年常務役員、27年専務役員、28年トヨタ自動車常務役員、29年6月27日日野自動車社長に就任。(矢田 健一郎)