インタビュー

メインビジュアル

【 インタビュー 】

荷主、事業者は意識改革を 発展にインフラ不可欠 

2017年05月16日

近畿トラック協会 辻 卓史 会長

 宅配便の総量規制を発端に、物流業界が抱える課題が社会全体に共有されつつある。だが、荷待ち、ドライバーによる手積み・手降ろしといった生産性の低い現場は依然少なくない。現状を近畿トラック協会の辻卓史会長は「事業者も荷主も人余り意識から抜け切れていない」と指摘。業界のあるべき姿を語る。

 ――近畿の現況は。
 辻 近畿2府4県の事業者は約9500社、車両は約15万台に上る。長年、地元経済を支えた製造業は地盤沈下が進み、人口流出や本社移転が止まらない状況だ。
 ――打開策はあるか。
 辻 「インフラ整備なくして経済成長なし」といわれる。リニア中央新幹線や北陸新幹線の大阪延伸は決まったが、前倒しは必要。高速道路では、新名神高速道路が平成34年度に全線開通を迎える。これらが完成すれば、ヒト・モノ・カネの動きが活発化し、地域経済が発展する。
 ――なるほど。
 辻 大阪は37年に開催を目指す万国博覧会に立候補した。さらにIR(統合型リゾート)の誘致は活性化につながる。一方、京都や奈良をはじめ世界遺産、国宝が数多くあり、近畿の訪日客は初めて1000万人を超えた。中長期的には近畿経済の先行きは明るいといえる。
 ――経済を支えるのは物流だ。
 辻 国内輸送でトラックは9割以上を占める。内航、鉄道、飛行機といった輸送機関はあるが、両端部分ではトラックは欠かせない。つまり、トラックが国内物流を100%担っていると言っても過言ではない。

「サービス無料」はやめよ

 ――ただ人材不足は深刻な課題。
 辻 業界は底流にある過当競争体質に加え、事業者も荷主もいまだに「人余り」意識から抜け切れていない。これが「サービスは無料」という認識につながっている。一部の荷主に、荷待ちや手積み・手降ろしに対して「改善しよう」という意欲が少ないことは典型だ。今後さらに厳しくなる人手不足を、もっと深刻に受け止めなければならない。
 ――危機感が足りない。
 辻 従来の「3K」(きつい・汚い・危険)に、「休日が取れない」「給料が安い」が加わった「5K」イメージがある。是正するには、本来の運賃に付帯コストを加えた適正な運賃と料金の収受は不可欠。さらにパレット化、機械化などで作業負担を見直し、女性や高齢者が働きやすい環境づくりを進める必要がある。
 ――長時間労働を改善する協議会が果たす役割は大きい。
 辻 そうだ。事業者の取り組みには限界がある。トラック輸送は、ライフラインを担っている。業界が抱える問題を社会全体が共有すべき問題と捉え、荷主、行政、事業者が一堂に会し、率直な議論を続ける意義は大きい。荷主と事業者がWIN―WINの成果を目指し、行政は行司役として両者が納得するガイドライン(指針)制定や必要な法整備に結び付けてほしい。

(略歴)
 つじ・たかし=昭和17年10月3日生まれ、74歳。41年一橋大商卒、宇部興産入社、58年鴻池運輸入社、専務、平成元年社長、12年会長兼社長、15年会長。19年から全日本トラック協会副会長、28年から近畿トラック協会長、大阪府トラック協会長。(遠藤 仁志)