インタビュー

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【 社長インタビュー 】

完成車輸送で新展開 得意先の工場移転と歩調 

2016年11月29日

千代田運輸 水野 功 社長

 自動車関連物流を主力とする千代田運輸(本社・東京都日野市)。7月には大手トラックメーカーの工場移転に合わせ、完成車のトライアル輸送も開始した。一方、完成車輸送業界ではドライバー不足などで厳しい経営環境が続いており、水野功社長は「質の高いサービスの継続へ、良質な若手ドライバーの確保が喫緊の課題」とする。

 ――荷動きは。
 水野 国内のトラック販売台数が好調で活発な荷動きが続いている。車両に加え、架装メーカーからの受注も旺盛。少なくとも来年上期までは、好調な荷動きが続くとみている。
 ――業績はどうか。
 水野 平成28年4~9月期は売上高、営業利益ともに前年同期を上回った。売上高は9月に単月で初めて8億円を超え、4%以上伸びた。営業利益は当初出足が鈍かったが、9月に入り持ち直すことができた。
 ――好調な業績の背景には適正料金収受の取り組み効果もあるのか。
 水野 売上高が伸びたのは、物量が増えたことが大きい。生産車を一時保管するモータープールの料金は荷主から若干収受できるようになったが、十分とは言えない。運賃そのもののアップは難しい状況にある。

稼働状況見据え拠点整備も

 ――今夏から新たな取り組みが始まった。
 水野 大手トラックメーカーの古河工場(茨城県古河市)移転に伴い、7月から完成車のトライアル輸送を開始した。現地で10人以上の従業員を確保し、1日2回転できる体制を整備。国内向けのトラクターヘッドは販売会社に、輸出向けは横浜の大黒ふ頭に輸送している。
 ――古河工場の稼働状況に合わせ対応する。
 水野 新工場の稼働率が上がれば、生産車の大半が古河から生産されるだろう。取引先と相談しながら最適な輸送ルートを選定したい。フル稼働となれば既存倉庫の見直しも必要になる。現在は近隣に延べ床面積3300㎡ほどの平屋倉庫を賃借しているが、将来的にはより規模の大きい物流施設を整備する。
 ――自動車関連以外の業務拡大も目指す。
 水野 この数年取り組んでいる館内物流は、今後も成長の見込める事業の一つ。今年経験豊富な人材を外部から獲得し、現場の営業、マネジメント体制を強化している。館内物流は利益への寄与が大きく、さらに拡大を進めたい。

労働時間規制の実態踏まえ

 ――経営の課題は。
 水野 中長期的に良質なドライバーをどう確保するかだ。国は労働時間規制を進めているが、物流と他産業を同じ基準で考えるのはいかがなものか。基準を統一するなら、まず前工程の波動をなくす必要がある。実態を踏まえず、現場の事業者だけを取り締まるのはおかしい。
 ――来年4月には高速道路で車両制限令違反者への処分も厳しくなる。
 水野 (制度改正により)完成車輸送業界は厳しい対応を迫られるだろう。一般的なトラックと異なり、キャリアカーは軸重とともに長さがネックとなる。仮に積載できる完成車が1台減れば、輸送効率は大幅に低減する。渋滞の多い一般道を走ればドライバーの労働時間が増え、国の進める労働政策に逆行する。
 ――より実態に合わせた政策が必要。
 水野 行政は産業ごとの実態に合わせて政策を進めるべき。長年続く商慣習、働く人の意識を変えなければ、立場の弱い事業者だけが苦しむことになる。付帯作業を物流に任せたままの状態で、労働時間の問題に取り組んでも表面的な部分しか解決できない。

記者席 自動車産業へ危機感

 厳しい環境が続く完成車輸送業界。キャリアカーの運転、完成車の積載技術の習得には長い時間を必要とするが、そもそもドライバーが集まらない。新車も注文から2年半以上待たなければならず、人も車も不足する状態が慢性的に続く。
 「このままでは運べなくなる」。水野社長がこの数年言い続けている言葉だ。世の中では新車販売台数の増減に注目が集まり、物流に目が向けられる機会はほとんどない。メーカーも生産体制ばかりに注力しがちで、工場から出た後まで考える担当者は少ないという。
 自動車は日本を代表する産業。完成車輸送の老舗企業として、産業を支え続けてきたからこそ将来に強い危機感を持つ。「国も、荷主も、消費者も物流の抱える課題を真剣に考えてほしい」
(経歴)
 みずの・いさお=昭和28年2月6日生まれ、63歳。神奈川県出身。50年慶大卒。イトーヨーカドー社長秘書などを経て、61年千代田運輸に入社し取締役。同年社長就任。(小林 孝博)