インタビュー

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【 インタビュー 】

物流も「需要先取り」を 事業モデルの大転換点

2016年10月04日

政策研究大学院大学 松谷 明彦 名誉教授

 少子高齢化で日本のビジネスモデルが揺らいでいる。国際競争力の低下が続くモノづくりは、変革しなければならない正念場に。松谷明彦政策研究大学名誉教授は「物流企業も高い輸送品質を維持しながら、顧客のニーズを先取りして、新しい物流の枠組みを提示していくことが求められる」と語る。

 ――人口減少が日本経済に与える影響は大きい。
 松谷 経済成長率は労働者数の増減率と技術進歩の速度で決まる。労働力人口の減少が激しい日本では経済成長率が他の先進諸国に比べ低くなる。従来の日本型ビジネスモデルでは経済自体が衰退する恐れがある。

モノづくりに足りない発想

 ――日本型ビジネスモデルとは。
 松谷 日本企業は欧米で開発された製品を安く大量に造ることを強みに成長を遂げてきた。が、そのモデルは限界に来ている。中国、インドなどの新興国や人件費が安い東南アジアの途上国など、強力な競争相手が出てきたからだ。
 ――日本製品の国際競争力は弱くなった。
 松谷 日本企業は、故障の少ないものは作れても、欧米企業のような優れた機能の新製品やデザイン性豊かなものは造れていない。少量でも高く売れるモノを造らなければ、競争力を維持向上させることはできないということだ。
 ――欠けているものは。
 松谷 「ニーズ・オリエンテッド」、いわば顧客が何を望むかという視点だ。例えば、携帯電話の分野では、1台のスマートフォンで通話とデータ通信を別々の会社と契約できる便利な機種が続々と登場しているが、全て外国製で、日本企業はほとんど必要のない機能を満載し、かつ値段は3倍以上と、全く反省がない。ニーズ・オリエンテッドの姿勢が欠けている表れだ。
 ――どうすれば姿勢を変えられる。
 松谷 技術開発の国際化が急速に進展している。もはや日本人だけでは太刀打ちできないと考えるべき。モノづくりなら、国内外問わず開発能力やデザイン力に優れた人材を集めることが肝要。そのためには海外企業の本社を日本に呼び込むことも必要だ。もちろん、日本企業が得意とする小型化、精密化といったクオリティーを、これからも維持できれば、それはそれで強みになることも確かだ。
 ――物流企業にも変革が求められる。
 松谷 人口減少が進めば国民の貯蓄率が下がり、修繕費のかさむ道路などの交通インフラは維持できなくなる恐れがある。道路に比べ修繕費がかからない鉄道や内航海運を長距離輸送に活用するなど、多様なモードを用意しておくことが必要になる。
 ――だが、国内輸送のほとんどはトラック。
松谷 企業・消費者向けともにラストワンマイルを運び切れるのはトラックだが、全てトラックでないとできないというわけでもない。製造業と同様にビジネスモデルの転換が求められていると考えるべき。
 ――物流業界は人手不足に加え、宅配便再配達といった課題を抱える。
 松谷 発想を変えて新しい輸送の仕組みを考えながら、各社がビジネスモデルを転換する必要がある。もちろん、配達の定時性といった世界に誇れる価値を守り続けることは大切だし、それは一つの基盤になる。

顧客に新しい枠組み提示を

 ――物流に優しいモノづくりも重要に。
 松谷 デザイン・機能性を重視する観点で言えば、物流事業者から生産側により運びやすい容器や方法を提案してみてもいい。受け取る側は受け取りやすく、配る側も配りやすいシステムをつくることも顧客の望みをかなえる一手になるのでは。
 ――ニーズ・オリエンテッドの発想だ。
 松谷 そう。誰が何を必要としているか、どうすれば顧客の需要を喚起できるかを先取りして考えることが重要だ。
 ――例えば。
 松谷 貨物をまとめて運ぶ海上コンテナの開発は物流の革命だった。が、効率化を図り大型化したものの、機能自体は変わっていない。輸送先ごとに分割可能なコンテナを造るなど、物流を支えるインフラそのものを考え直す発想が、ニーズに即した新しい枠組みの提示になるかもしれない。
 ――最後に物流業界へメッセージを。
 松谷 6月に中米の新パナマ運河が開通したことは朗報だ。従来通れなかった大型船が通過できるようになる。新パナマ運河活性化で世界の荷動きが反時計回りになれば、日本の港湾が再び国際的な物流ハブになる可能性も出てくる。京浜港や阪神港が脚光を浴びれば、外国企業参入の機運も高まる。日本の物流事業者は新しい流れに向けて奮起するときだ。

(経歴)
 まつたに・あきひこ=昭和20年9月生まれ、71歳。大阪府出身。昭和44年東大経卒、大蔵省(現・財務省)入省、主計局調査課長、主計局主計官、大臣官房審議官などを経て、平成9年政策研究大学院大学教授、16年東京大学より論文博士号(社会基盤学)取得、23年政策研究大学院大学名誉教授。(鈴木 洋平)