インタビュー

【 社長インタビュー 】
基礎力蓄え反転攻勢へ 人材育成、営業強化図る

2016年09月06日
トールエクスプレスジャパン 熊谷 義昭 社長
日本郵便グループに入り一年が経過したトールエクスプレスジャパン(本社・大阪市)。トール・ホールディングス(=トールHD)出身のニール・ポーリントン氏から6月末、バトンを受け継いだ熊谷義昭社長は「基礎体力を蓄えた上で反転攻勢に出る」と抱負を語った。グループの総合力を結集し、特積み名門復活ののろしを上げる。
――6月30日、社長に就任した。
熊谷 大型連休前に内示を受けたが、非常に驚いた。特積み事業、社長業はいずれも初めての経験で重責を痛感している。就任後1カ月は顧客や現場を回った。
「身売りない」相乗効果期待
――抱いた印象は。
熊谷 現場は心強い。安全の取り組みは、トールHDが着実な成果を残している。また、各支店長クラスが経営データを共有し、運営を担っている点は感心した。日本運送、フットワークエクスプレス、トールジャパンと経営母体は変わったが、それに対応した従業員には頭が下がる。
――買収から1年以上がたった。
熊谷 郵便幹線輸送の受託など部分的なシナジー(相乗)効果が表れ始めている。特積み事業と郵便事業の繁忙期は年度末を除き重複しない。顧客営業、人員、荷物、車両などでさらにシナジー効果の広がりが期待できる。グループでBtoC(消費者向け)からtoB(企業向け)、小口、大口までワンストップサービスの提供を目指す。
――日本郵便から託された使命は。
熊谷 両者の架け橋の役割だ。トールジャパンは日本郵便の孫会社に当たるが、業容は国内の陸上輸送が大半で日本郵便の子会社に準じた扱いに変更した。
――具体的には。
熊谷 レポートラインがトールHDから日本郵便に変更すると同時に、経営トップの交代で報告や社長説明が英語から日本語に変わった。これにより意思決定のスピード化、翻訳・通訳の軽減により事務の効率化が図られた。
――身売りがうわさされている。
熊谷 全くない。日本郵便がトールジャパンを重視している表れが私の着任だ。
中ロット囲う現場力を充実
――業績は前々期から黒字化を達成し、回復しつつある。
熊谷 過去の経営実態を考慮すれば、基礎体力はまだまだ弱い。国内の貨物量が縮小する中、輸送品質の向上と顧客の新規開拓で足元をより一層固め、売り上げ減少を食い止め反転させたい。
――強化するポイントは。
熊谷 まずは人材育成。顧客アンケートによると、集配ドライバーの評判が良い。この強みを伸ばすとともに、中長期的にはシステムなどで最新技術を導入し、労働力不足に対応する必要がある。また、ドライバー不足への対応で、高卒者を含む若年層の採用と育成プログラムにも取り組みたい。
――営業面は。
熊谷 当社の強みである重量物や長尺物の輸送品質に磨きをかける。特に、1~2トンの中ロット貨物を積極的に取り込む方針だ。
――その他は。
熊谷 解決すべき課題はたくさんある。価値を生み出す主体である現場にその解はある。本社・支社などの役割を見直し、「現場力」を充実させる。
――改めて決意を。
熊谷 いつの時代も変化にてきかく的確に対応しなければ生き残れない。特積み事業については素人で勉強することは多い。だが、素人ゆえに業界の常識にとらわれない視点で、改善すべきことを見いだせるのではないか。
記者席 諦めなければ道は開く
好きな言葉は「窮すればすなわち変じ、変ずればすなわち通ず」。郵便窓口や区分け作業の現場業務を皮切りに、総務省では民営化審議の国会対応、郵便事業企画部門、総務部門の責任者を務めた。「全て首尾よく収めたわけではないが、諦めず取り組めば、必ず道は開かれる」との信念を持つ。
郵便事業会社の北海道支社長時代は、年賀状対応で区分け作業するアルバイト8000人を3年間でゼロに。全社員に対して日常業務の中で、短時間でも作業に従事させ習熟を図ると同時に、機械システムの見直しに取り組んだ成果だ。
関西での勤務は初で、単身で乗り込んだ。早寝早起き、朝のテレビ体操、散歩、バランス良い食事で体調をコントロール。「自炊はストレス解消に良い」と休日に料理の腕を振るっていた経験がいま、生きる。
(略歴)
くまがい・よしあき=昭和27年10月16日生まれ、63歳。新潟県出身。46年旧郵政省入省、平成18年日本郵政公社郵便事業総本部経営管理部企画室長、20年郵便事業会社総務部長、22年北海道支社長、26年日本郵便輸送情報システム部長、28年6月トールエクスプレスジャパン社長就任。(遠藤 仁志)