インタビュー

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【 インタビュー 】

アセアン成長の期待度 物流の商機さらに拡大

2016年08月30日

亜細亜大学アジア研究所 石川 幸一 所長 

 著しい経済成長が続くアセアン。所得水準の向上によって各国で消費ブームが起こり、世界が注目する巨大市場に成長した。昨年アセアン経済共同体(=AEC)が発足し、物流の活性化も期待される。亜細亜大学アジア研究所の石川幸一所長は「今後も貿易の自由化やインフラ整備が進み、物流の商機は広がる」とし、企業は現地動向を分析してサービスにつなげることが重要と話す。

◆成長いつまで?
 ――アセアン経済はどんな点が強みか。
 石川 中東、中南米などの地域に比べ、政治的にも社会的にも安定していることが特徴。過去に経済危機が起きた後もV字回復をしてきた。中国が1人っ子政策の影響で高齢社会に入るのに対し、アセアンは「人口ボーナス」が続く国が多く、今後も経済成長が期待できる。
 ――現状は。
 石川 シンガポールやマレーシア、タイは所得水準が向上し、教育や娯楽といったサービス分野の消費が拡大。インドネシア、フィリピンは耐久消費財が売れるようになった。ベトナム、カンボジア、ラオスも所得レベルが上がっており、経済発展が後から追いかける「キャッチアップ」の現象が起きている。
 ――成長が続く。
 石川 人口ボーナスの終わるシンガポールは成長率の低下が予測されるが、フィリピン、インドネシアは5~6%、ベトナム、ラオスは7~8%の成長を続けている。カンボジアなど、従来所得水準の低い国では都市化も起こり始めた。4年後には、アセアン全体の中間・富裕層が4億8000人に増えるとされている。

◆AECの影響は?
 ――昨年末にAECが発足。
 石川 AECは貿易だけでなく、サービスや投資、熟練労働者の移動の自由化、さらにインフラ整備にも踏み込んだ経済統合の枠組み。創設メンバー6カ国の関税は現時点でほぼ100%撤廃。ベトナム、ミャンマーなど遅れて加盟した4カ国は1部品目の関税が残るが、2年後にはこれらも撤廃される。
 ――関税撤廃によりモノの動きが活性化する。
 石川 輸出入がより活性化し物量は増加するだろう。関税撤廃を見越して、自動車メーカーはタイを中心にメコン圏での分業を進めている。AECは、道路インフラや越境輸送協定、RORO船のネットワーク整備も目標に掲げている。貿易自由化とともにインフラ整備が進めば、輸送ネックが解消し物流分野の商機も広がるのではないか。
 ――AECの活用が事業拡大の鍵を握る。
 石川 AECを使わなければ不利になる。日系企業は平成5年のアセアン自由貿易地域(=AFTA)発足後、積極的に自由貿易協定を活用してきた。AECはサービスの自由化、非関税障壁など不透明な点は残るが、各国企業も競争でどう使うかを考えている。

◆落とし穴も?
 ――物流も同じだ。
 石川 商機を生み出すにはAECの制度や実態を研究し、新たな物流サービスを提案することが必要だろう。アセアン域内では越境輸送協定の協議も進む。一気通貫型の輸送、緊急輸送ルートの確保を求める荷主も多い。
 ――アセアン経済にリスクはないのか。
 石川 日本と同じくアセアンも人口動態のリスクを抱えている。シンガポール、タイは出生率が低下。将来的にはベトナム、ミャンマーなども同様の問題が起こり得る。高齢化による成長率の低下に加え、〝中所得のわな〟も考えられる。
 ――〝わな〟とは。
 石川 新興国がある程度経済発展すると、成長の停滞に陥りやすい。外国企業は低賃金の労働力を目的に投資するが、(投資国の)賃金が上がると競争力の源泉がなくなる。わなに陥らないためには新たな成長産業が不可欠。だがこれをつくり出すには、高い技術や教育が必要になる。タイやマレーシアは、わなにはまったとされる。

(経歴)
 いしかわ・こういち=昭和24年2月生まれ、67歳。東京都出身。東京外国語大外国語学卒、ジェトロ国際経済課長、日本貿易振興機構主任調査研究員などを経て、平成17年亜細亜大学アジア研究所教授、平成24年から同研究所所長。(小林 孝博)