インタビュー

【 インタビュー 】
大型化、新航路で開拓 長距離貨物の移転促す

2016年07月26日
日本長距離フェリー協会 入谷 泰生 会長
――海上輸送へのモーダルシフトの動きが盛んだ。
入谷 十分な手応えを感じている。ドライバー不足、安全規制の強化、コンプライアンス(法令順守)の厳格化で、トラックが長距離を走れなくなっている。海上輸送のニーズはまだまだ高くなるだろう。
――昨年、改善基準告示の改正で、乗船時間は全て休憩時間となった。
入谷 海上交通の利用支援となり歓迎する。乗船中は休憩で、当然の措置。トラック業界の熱意が実を結んだ。
上昇する経費大型化で吸収
――新造船への代替に伴う大型化が各船社で進んでいる。
入谷 市場の動向、将来的な投資計画を念頭に大型化の代替が進んだ。船員の給与、船価、燃料などのコストは長期トレンドで見れば、じりじりと上昇傾向にある。インフレではない経済環境の下、大型化でコストを下げざるを得ない。
――新船を建造すれば、15~20年運航する。
入谷 国内は少子化で経済はなかなか膨らまない。高度成長期のような物量の増加も期待できない。だが、海上輸送が可能な荷物は依然として陸送されている。仮に物流全体のパイが収縮したとしても、海上輸送へ移転できる荷物は多く、業界の成長が見込める。
――フェリーの輸送力は右肩下がりだったが、一転して新規航路の動きがある。
入谷 将来のモーダルシフトを創出する動きといえる。川崎近海汽船が10月に開設する清水港(静岡市)―大分港(大分市)航路は、物量が圧倒的に多い首都圏―九州がターゲット。ただ、全国各地で航路開設が続くとは限らない。
――高止まりしていた船舶燃料(C重油)価格が約7年ぶりに3万円台まで低下した。
入谷 燃料油価格変動調整金(燃料サーチャージ)を4四半期ごとに見直し顧客に負担をお願いしているが、100%は回収できていない。荷主の理解が十分に浸透していないのと同時に、トラック業界の多層化でフェリーを利用する末端の事業者まで適正な運賃が支払われていない。業界の合理化、効率化が適正運賃の収受につながるだろう。
国のバランスある支援必要
――今後、どのようにモーダルシフトを加速させるのか。
入谷 平成20年度から毎年、国土交通省、日本内航海運組合総連合会と共にモーダルシフト優良事業者を表彰する活動が定着した。荷主は環境面やコンプライアンスに敏感で、海上輸送の優位性をさらにPRすれば利用は増えるはずだ。
――国の後押しも必要。
入谷 事業環境の整備を求める。時の政権の偏った政策は是正されつつあるが、大口多頻度割引の拡大は残っている。高速道路と並行する瀬戸内航路は特に影響が大きい。高速道路を利用するメリットは確かにあるが、そこに税金を投入するのはいかがなものか。東日本大震災、熊本地震のような大災害を考えれば、海上交通は非常に重要な存在となる。高速道路、鉄道、海上輸送とバランスが取れた政策を進めてほしい。
(略歴)
いりたに・やすお=昭和21年11月26日生まれ、69歳。44年京大卒、45年新日本海フェリー入社、51年取締役、平成6年社長。阪九フェリー会長などを兼任、25年7月から日本長距離フェリー協会長を務める(遠藤 仁志)