インタビュー

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【 トラック特集2025インタビュー② 】

連携・協働が課題解決の鍵 供給制約、関係者で打開

2025年03月25日

国土交通省
鶴田 浩久 物流・自動車局長

ドライバーの残業上限規制適用から1年を迎えるトラック業界。輸送力不足の課題を乗り越えるため、4月に規制的措置が適用され、関係者に物流効率化などの協力が義務付けられる。国土交通省の鶴田浩久物流・自動車局長は「今後の物流は新たなルールの中でやっていくことを理解してほしい」とし、さらなる連携・協働の必要性を呼び掛ける。

―残業上限規制の適用から1年を迎える。

鶴田 官民それぞれの立場で力を合わせて取り組んだことで、懸念された深刻な輸送力の停滞は起きていない。一方、昨年9~11月に行った実態調査によると、1運行当たりの平均拘束時間は減少したが、荷待ち・荷役時間は横ばいで、むしろ運転時間が減っている。

今後は新ルールで

―課題も残る。

鶴田 荷待ち・荷役の料金収受ができれば賃上げにとって意味はあるが、荷役作業はドライバー以外もできる。荷主が作業を行い、ドライバーは運転に時間を割ける環境を整えていくことが重要だろう。荷主、物流企業のそれぞれの立場で取り組まなければ改善は難しく、積極的に取り組んでほしい。

―4月から規制的措置の適用が始まる。

鶴田 (省内の)若手チームの発案に始まり、発・着荷主、物流企業など全ての関係者に協力を義務付けることになった。約2年間、これを前提に、自主的に助走を始めてもらってきた。適用する内容はどれも物流をより良くするためのもので、今後は定めたルールの中でやっていくことを理解の上、それぞれの立場で取り組んでもらう。

―連携・協働が課題解決の鍵を握る。

鶴田 「物流を改善する」と「物流で改善する」を両立させることが鍵になるのではないか。この仕事に長く携わると、「物流を」に目が行きがちだが、より広い立場の人が共通の目的を持つには、「物流で」という考えを持つことも重要だ。この考えを持てば、互いに収益性の改善、生産性の向上が見込める。運送企業も荷主も、互いにメリットのある提案をすることで、初めて「三方よし」につながる。

―効率化が重要に。

鶴田 人口構造が変化する中、物流を含むエッセンシャルワーカーは需要に比べて、供給が減り続ける「供給制約」に直面している。課題を乗り超えるには担い手の処遇改善が不可欠だが、今の運び方のままで運賃の押し合い・へし合いをするだけでは、明るい未来を展望できない。三方よしの実現には効率化が条件になる。

継続的な取り組み必要

―物流は効率化できる余地が大きい。

鶴田 これまで数十年間、少量多頻度化のニーズに応えたことで物流の効率性は下がり、生産者と消費者の効率性を高めてきた。その分、物流効率化の伸びしろは大きい。人口構造の変化を踏まえ、社会の効率性を再配分するとも言え、発・着荷主と物流企業、また物流企業同士の連携・協働が課題を乗り越える鍵になる。

―取り組み状況のチェックはどう進める。

鶴田 今後は、国が取り組み状況を調査・公表する。取引適正化に問題のある荷主には厳しく対応するが、同時に良い取り組みも公表し、社会の目から見て分かるようにすることも重要だ。新たな制度の開始後、必要ならば内容を見直す考えがあってもいい。最悪の場合、勧告・命令する権限を与えられたことの責任を重く受け止め対応する。

―規制的措置の内容を理解できていない荷主、運送企業も存在する。

鶴田 地方運輸局・運輸支局を含め、国交省も、頭では理解できていても、身に付いていない部分がある。荷主・運送企業向けにQ&Aの資料も作成する。問い合わせのあった質問を基にバージョンアップも行う計画で、継続的に取り組んでいく。

―時間をかけながら着実に浸透させる。

鶴田 (残業上限規制に伴う)2024年問題は始まりに過ぎない。物流の供給制約は年々深刻化し、取り組みを深めるしかない。規制的措置はそれを見据えた対策で、理解を深めてもらいながら行動変容を促していく。

適正取引、行政が後押し

―近年、取引適正化の対策を強化している。

鶴田 昨年11月、トラックだけでなく、倉庫も含めた物流全体の適正化を推進するため、「トラック・物流Gメン」に改組した。都道府県のトラック協会にもGメン調査員を任命してもらい、約360人規模で問題の疑われる取引の監視と是正指導を行っている。

―成果は。

鶴田 昨年11~12月の集中監視月間では、前年と比べて約2倍の是正指導を行い、このうち2件を勧告・公表した。期間中、Gメン調査員による115件の情報提供もあった。Gメン調査員はより運送企業に近い立場にあり、今後も生の声を集めてもらえることを期待している。

―適正取引では多重下請け対策も課題。

鶴田 車の両輪の対策が必要になる。規制的措置で荷主に協力を求めているが、多重下請けを何とかしなければ、荷主が適正な運賃・料金を払っても実運送に届かない。下請け構造下で何回も手数料を差し引かれてしまっては、荷主からの協力を継続的に得ることが難しくなる。

現在は歴史的な好機

―実運送に必要な対価が届く仕組みをつくる。

鶴田 実運送という言葉は昨年、物流総合効率化法と貨物自動車運送事業法を改正する国会審議で、何回も登場し、我々も中核的な概念との認識を新たにした。実運送の適正運賃・料金収受を推進するため、実運送体制管理簿などの規制的措置による対策を講じる。昨年8月に立ち上げた検討会では貴重な知見も得ており、さらなる対策を検討していく。

―事業許可更新制の導入をどう見る。

鶴田 全日本トラック協会による構想は承知している。方向は、(昨年の衆参の)付帯決議の内容が中核になっており、国交省として目指していることと同じだ。一方、現在のスピード感で動いていることは並大抵のことでない。同じ理想を追求すべく、行政として力を尽くす。

―歴史的にも今は改革を進める好機。

鶴田 農耕社会が始まって以降、複数回の産業革命を経て現在に至るまで、一貫して人口は増加し、社会機能は細分化・断片化してきた。だが今の日本は史上初めて人口減に転じ、これは世界的に不可逆の変化だろう。(今を生きる)私たちは、さまざまな世代から成るが、共通しているのは、細分化・断片化から「統合化」に向かい、明るい未来をつくり始める時代に立ち会っているということだ。

―物流も変わることが求められる。

鶴田 担い手の希少価値が高まると、自然と処遇改善が実現するとの考えもあるが、社会全体で人を取り合う中、全産業の平均より悪い状況は変えなければならない。また、これまで数十年間の固定観念を変えるためにタイムラグがあるとすれば、担い手の人生の長さと比べて無視できないし、この間に物流が停滞しても困る。だからこそ、連携・協働の動きを加速させたい。

記者席 さらに先を見据え

2023年10月の物流・自動車局発足から、約1年半、局長として組織をまとめてきた。この間、重視してきたのが「連携・協働」。部局内だけでなく、経済産業省、農林水産省といった関係省庁との関係も深め、物流をより良くするための基盤構築に取り組んできた。
「これまで良い相手に恵まれた。これからはさらに幅広く、他の組織との連携を深めなければならない」と話す。国土交通省内でも物流と密接に関わるインフラ関係の部局との連携は欠かせない。荷主所管官庁は他にもある。行政の連携をより緊密にし、さらなる環境整備を描く。
今年、総合物流施策大綱が最終年度を迎え、次期大綱の議論が始まる。今後数年間の国の物流政策を決める重要な場だ。連携・協働をキーワードに物流の未来を見据える。