インタビュー

【 社長インタビュー 】
陸海を効率的に結ぶ ニーズに合わせ航路開設

2015年09月08日
川崎近海汽船 石井 繁礼 社長
今年、室蘭―宮古のフェリー、清水―大分のRORO船と2つの新航路開設を発表した川崎近海汽船(本社・東京)。内航業界に吹き始めたモーダルシフトの風を最大に活用する新航路だ。〝かじ〟を握る石井繁礼社長は、「ドライバー不足など物流環境の変化による顧客の要望に迅速に対応していく」と語る。
――2つの新航路開設を打ち出した。
石井 室蘭―宮古航路は、「シルバークイーン」クラスの投入を予定している。運航ダイヤについては検討中。両港の岸壁とターミナルは平成30年の供用開始に向け準備中だ。
――室蘭―宮古を選んだ理由は。
石井 トラックドライバーの拘束時間の問題で、長距離航路への貨物流出が起こる。その防止と貨物の呼び戻しに最適の航路。北海道からは農水産品や畜産品、冷凍食品の需要が見込まれ、宮古からは宅配や農産物を見込んでいる。
――勝算は。
石井 苫小牧各航路の夜便は積み残しが出ており、新航路にも需要があるのではないか。岩手県をはじめ、南東北の荷物の掘り起しが課題。旅客では、北海道、岩手双方に優良な観光地がある。室蘭港の夜景も一見の価値がある。航路維持のためには往来の活発化が必要だ。
――もう一方の清水―大分航路は。
石井 拘束時間厳格化により起きているドライバー不足に対応したい。陸上輸送と海上輸送を効率的に接続させることで、需要の取り込みを図る。
――両港を20時間で結ぶ。
石井 高速道路の整備により両港ともに大消費地まで2時間前後で到着する。集荷から3日目の朝一での配送が行える。生鮮野菜や宅配、自動車関連部品など、トラックが行っている貨物輸送を海上輸送に転換できる可能性がある。
環境の変化を機敏に捉えて
――モーダルシフトを促進していく。
石井 物流の変化に伴って生まれる顧客要望を迅速に捉え業容拡大と安定収益の確保をするのが、当社の経営の基本理念。近海と内航が相互補完し合い成り立っている。国内では、今後モーダルシフトは加速する。商圏を拡大したい。
――近海部門では。
石井 船型を絞り、得意分野に注力する。バルク輸送では、営業基盤のアジアだけでなく、北米航路や東南アジア以西のエリアまで視野に入れて営業を展開する。木材、鋼材輸送もニーズに適した船腹を確保していく。
大型化による貨物増に期待
――足元は厳しい。
石井 昨年度は増収増益。足元は厳しい環境だが、近海部門は、積極的な営業展開で影響を最小限にとどめている。国内部門も、全体として鈍いが、専用船をはじめ輸送量は維持している。
――苫小牧―常陸那珂に投入した大型船の効果は大きい。
石井 前年を上回る輸送量確保につながった。貨物量でも、宅配貨物など雑貨を中心に消費増税前の駆け込み需要による反動減から回復の兆しも見える。
――今後の見通しも明るい。
石井 内航部門では、不定期輸送で上期に見られた鉄鋼・セメントメーカーの減産が下期には一段落し、貨物量も増加するだろう。建材や建設関連資材、食品なども安定している。フェリーも宅配便などが堅調に推移すると見込んでいる。
――近海部門の収支改善が喫緊の課題。
石井 7月からシンガポールの現地法人を1人増員し2人体制にした。アジア域内営業の軸にしていく。
記者席 改革と堅実の二刀流
次々と新手を繰り出す。新造船の建造、北と西で日本の新航路開設、オフショア支援船事業の展開など、どれも内航業界では他社に先駆けた取り組み。
一方、停滞が続く近海航路では「じっと我慢」。船隊を整理し営業資源を集中。堅実な経営を進める。アジア域内のスポット貨物が減少する中、取扱量の減少を食い止める。
「トラック事業者はどう考えているのか」。逆取材を受けることもしばしば。顧客の声が気になる。圏央道沿いの物流施設開発など物流動向にも常に目を配る。いまドライバー不足もあり船舶へのシフトが徐々に進む。「ニーズを受け止め、迅速に対応していきたい」
社長就任以降、プライベートでの旅行を慎む日々。「いつ何が起きるか分からないからね」
(略歴)
石井 繁礼氏(いしい・しげのり) 昭和24年11月17日生まれ、65歳。大阪府出身。47年神戸大経営卒、川崎汽船入社、平成14年取締役電力炭グループ長、17年常務、18年常務執行役員、21年4月川崎近海汽船顧問、6月常務、22年専務、23年社長。(佐藤 周)