インタビュー

【 社長インタビュー 】
不退転の決意で船出 航路維持には運賃適正化

2015年08月25日
フェリーさんふらわあ 井垣 篤司 社長
関西と大分、別府、志布志の3航路を持つフェリーさんふらわあ(本社・大分市)。6月、社長に就任した井垣篤司氏は「フェリー事業は成長産業だ」と話す。財務状況の改善で運賃適正化を強力に推進。前年度は経常利益約7億円を挙げた。今後の新船建造など事業戦略を聞いた。
――社長就任の率直な感想は。
井垣 収支改善計画を実現するため、平成20年に商船三井から出向。営業の責任者として増収の具体策を練る一連の過程を歩み、総仕上げの段階での就任だ。7年間、ブレーキを掛けず、アクセルを踏み続けてきた。その姿勢は変わらない。
――どのような増収策を図ったか。
井垣 親会社の商船三井は赤字解消までの期限を示し、退路を断った。要因は、過当競争の末の安易な運賃値下げ。限られた船腹の中、採算性向上のためには運賃の適正化しかない。減便、減船、希望退職の募集などリストラ策を実施。運賃の適正化は不退転の決意で取り組んだ。
適正運賃航路維持に不可欠
――顧客との交渉は。
井垣 「覚悟を持って発言せよ」と社員に伝えた。運賃の適正化は航路の維持に欠かせず、顧客の理解が得られるまで何度も要請した。
――結果は。
井垣 総費用の約4割、航路によっては5割以上を占める燃料価格が特に上昇したため、価格変動調整金(バンカーサーチャージ)の導入を優先した。また、社員が一連の交渉過程で思い悩み考えながら、自ら問題の解決を図ったことで、良い変化が生まれた。
――業績は。
井垣 26年12月期決算の売上高は約140億円、経常利益は約7億円。どちらも前期比で横ばいだった。貨物輸送部門は約6.5割を占める。消費増税の反動減、物量の低迷が影響した。
――陸運業者のフェリー需要が高まりを見せている。
井垣 多くの事業者が期待している。国内物流は変革期に入った。労働人口の減少などで長距離ドライバーが不足し、危機感が強まった。だが、船は簡単に代替できない。どのような顧客ニーズを捉えるか、船社は戦略が求められている。
――その戦略は。
井垣 九州の発着港は中九州(大分、別府)と南九州(志布志)。いずれも整備が進む東九州自動車道沿いに当たる。フェリーと高速道路を活用した事業展開を模索している。
――新造船の考えは。
井垣 3航路、計6隻を所有。1隻当たり15年で代替すれば、5年ごとに投入する必要がある。財務状況を踏まえ先送りしたが、顧客ニーズを反映できる定期的な新船投入は経営の目標だ。
志布志航路新船年内に判断
――具体的な構想は。
井垣 大阪―志布志航路の「さつま」「きりしま」2隻は船齢が22年。顧客には「航路維持を図るため新船投入が必要」と、運賃適正化の理解を深めて新船を実現したい。造船所の空き具合を考慮すれば、年内に判断したい。船齢が17年の大阪―別府航路「あいぼり」「こばると」の大型船代替も視野に入る。
――他の検討課題は。
井垣 関西(大阪南港ATC、南港かもめ、神戸)発着港の集約は今後、検討課題の1つ。例えば、新船で大型化を図れば、現行の発着港がベストなのか。物流と旅客両面を考慮した上で、港の利便性や機能性などさまざまな観点で精査を進める。
――フェリー業界の展望は。
井垣 国の高速道路偏重政策はアンバランス。フェリーは〝海の高速道路〟だ。物流に必要不可欠であるとともに、震災など緊急時の輸送手段でもある。海運事業は歴史ある事業であり、フェリー事業は成長産業だと認識している。
井垣 篤司氏(いがき・あつし) 昭和31年11月30日生まれ、58歳。54年大阪商船三井船舶(現・商船三井)入社、平成17年グループ事業部長、20年ダイヤモンドフェリー取締役、21年フェリーさんふらわあ取締役、23年常務、27年6月25日社長就任。(遠藤 仁志)