インタビュー

【 社長インタビュー 】
安全最優先は不変の誓い 人材力高め、年商200億円へ

2024年06月25日
山陽自動車運送
細川 武 社長
山陽自動車運送(本社・大阪府東大阪市)は、安全最優先の方針を軸に置き、安定した輸送サービスを構築している。将来にわたり事業を継続するためには、原資となる運賃・料金の適正収受が不可欠で、細川武社長は「単なる値上げではなく、荷主の理解を求めるために粘り強く交渉していく」と話す。今後の事業戦略や具体的な目標などを聞いた。
―社長就任から3年。
細川 業界が大きな転換点を迎える中、コンプライアンス(法令順守)にいち早く取り組み、万全の体制を敷いてきた。同時に、運賃・料金の適正収受を強力に推進し、経営基盤の再構築も図った。荷量が漸減するも増収を確保して一定の利益を残しているが、決して満足はしていない。
―これまでを振り返ると、レンゴーから転身された。
細川 当初、不安は大きかった。1980年に入社し、主に段ボールの営業や工場長など現場を歴任してきた。そのため、物流との接点は薄かったが、社長に内定すると、メーカーとして培った知見を振り返り活用できないか模索した。
―知見とは。
細川 安全最優先の考えだ。メーカー工場では、作業の安全性を確保するため、指さし確認といった合図を徹底している。物流に身を置いても安全最優先の考え方は不変で、事故を防ぎ社会的使命を果たしていく。
粘り強い交渉適正収受推進
―安全は共通の思い。
細川 毎年4~5月に全拠点を安全輸送部と訪れ、直接、全社員に安全意識の徹底を共有している。一辺倒にありきたりな言葉で語るのではなく、今回は人気アニメ「鬼滅の刃」の〝全集中〟を盛り込みつつ、少しでも一人一人の心に分かりやすく伝え、安全運転の一助になればと願っている。
―業績はどうか。
細川 2024年3月期の売上高は140億円で3期連続増収。経常利益は6億円で前期の水準を超えた。当面の目標は19年度の売上高144億円、経常利益11億円を上回ること。荷量はこの3年間で約1割減ったが、運賃・料金の適正化にまい進し、収益力を底上げした。今後もコストの上昇は避けられないため、運賃・料金の改定を今期から開始し、荷主の理解を得られるよう粘り強く交渉していく。
―前期はM&Aを行った。
細川 中・長期の目標では年商200億円を設定している。主軸の特積み事業は着実な拡大を見込んでいる。成長分野は倉庫を活用とする3PLとM&Aで、さらなる高みを目指す。
―達成には人材の確保が欠かせない。
細川 その通りで、レンゴー時代も同様で人材は事業の根幹を支える。段ボール業界では他社との差別化が難しく、最終的に営業マンの人柄が決め手となった。物流業界も等しく、個々の人間力を上げていくことが業績向上につながると信じている。提案力の向上ではグループのシナジー(相乗)効果が期待できる。
―女性の活用も求められている。
細川 現在、女性が占める割合はドライバー500人中5人でたった1%。スタッフを含めた全体でも9%に過ぎない。これからは女性の力が不可欠で、将来的には20%まで高めたい。一環として、43年の創業100年を見据え、30~40代で将来の経営を担うメンバーで立ち上げた「ネクスト100」で議論している。若い知恵を経営に役立て実践していく。
―描く将来像は。
細川 物流業はエッセンシャルワーカーと呼ばれながらも、発・着荷主にその意識が薄い。もっと言えば、社員自身も同様だ。社員一人一人が自信と誇りを持ち、当たり前に荷物を安全・確実に運び、当たり前の運賃・料金を収受することが基本。業務面ではパレット化、待機時間の削減など実践すべきことは少なくない。同時に、サービスに見合った対価を諦めない姿勢を保てば、理解が広がると信じている。
記者席 「仕事を楽しむ」
知之者不如好之者、好之者不如楽之者―。論語の一節を好む。ビジネスに置き換えれば、仕事を知っている人は、仕事が好きな人にはかなわない。好きな人は楽しんでいる人に及ばないと解釈する。
出会いは30代。段ボール営業時に顧客から授かった。仕事を楽しむようになると、何事も前向きに捉えられるように。現場で実績を積み上げ、レンゴー常務上席執行役員まで駆け上がった。
3年前に身を転じると、「物流を楽しもう」と心掛けた。昨年、創業80年の節目を通過し、100年企業へ挑むにはドライバー、社員らの心をより一つにと願う。精神的支柱とする論語の一節を社員に語り継ぐとともに、「仕事にもっと誇りと自信を」と鼓舞し、先を見据える。