インタビュー

【 インタビュー 】
特積み企業が業界リードを 24年問題の解消目指し

2024年06月18日
小熊 弘明
貨物流通事業課長
トラックドライバーの残業上限規制に伴う輸送力不足を回避するため、さまざまな施策を講じてきた国土交通省。今春には、貨物自動車運送事業法などの改正案も成立した。小熊弘明貨物流通事業課長は「特積み企業はトラック業界をリードする立場にある」とし、取引適正化や効率化を進め、「中長期的な視点で持続可能な物流を実現してほしい」と期待を寄せる。
―4月から、ドライバーの残業上限規制の適用が始まった。
小熊 現時点で大きな問題はないと承知している。一方、(国交省が設置した)窓口には、荷待ち・荷役の問題、適正運賃収受などに関する相談が届いている。丁寧に声をくみ上げて対応したい。標準的な運賃の活用状況など、実態調査も検討していく。
―当面、国としてどう動く。
小熊 適正運賃収受という基本的な考え方を基に関係省庁、産業界と連携し、トラックGメン、標準的な運賃、業界ごとの自主行動計画などを通じ、適正運賃収受と効率化の両立に取り組む。あらゆる施策を組み合わせて業界を支援していく。
―昨年7月設置のトラックGメンの成果は。
小熊 昨年度末までに実施した働き掛けは478件、要請は174件。2件の勧告・社名公表も行った。是正指導により、荷待ち時間短縮、運賃引き上げなどにつながっている。荷主・元請けへの抑止力となっているとの声も聞かれ、一定の効果があると考える。
―取引適正化の推進には、トラックGメンの機能強化が重要になる。
小熊 中小企業庁の下請けGメン、厚生労働省の荷主対策特別チームなど関係省庁と連携し、情報収集を強化する。また、改正法で国が指定した地方貨物自動車運送適正化事業実施機関が、悪質な荷主などの情報を国交相に通知する規定を新設するといった、トラックGメンの機能強化も行った。今後は、地方実施機関からの情報など、さまざまな情報を活用し、対応していく。
標準的な運賃で賃上げ期待
―3月には新しい標準的な運賃を告示した。
小熊 運賃水準を平均8%引き上げるとともに、荷待ち・荷役の対価、下請け手数料などの新たな項目を設定した。24年度に10%前後の賃上げ効果を見込んでいる。
―4月に成立した改正貨物自動車運送事業法により、取引適正化の施策をさらに進める。
小熊 元請け企業に対し、実運送企業が適正運賃を収受できるよう荷主と交渉することや、下請け次数に制限を設けるなど、下請け行為の適正化について努力義務を課す。今後は制度の周知・浸透を図るとともに、運賃が不当に据え置かれている場合、トラックGメンによる是正・指導を通じ、実効性を確保する。
多重下請けは可視化し是正
―法改正を機に、多重下請け構造の対策も加速させる。
小熊 実運送企業の名称などを記載した「実運送体制管理簿」の作成や、運送契約内容の書面化の義務付けなど、多重下請け構造の見える化を通じて是正していく。運送発注者と受注者が情報を相互に通知し、管理簿で荷主ごとの下請け次数、貨物内容、運送区間といった内容を管理してもらう。運用に当たっても、既存の配車表を活用可能とするなど、元請け企業の負担をできる限り軽減するよう配慮したいと考えている。
―取引適正化では、水屋への対策強化を求める声も強い。
小熊 例えば、マッチングサービスを使って運送を発注する企業は、下請け行為の適正化の対象となる。努力義務だが、違反原因行為の疑いがある場合、トラックGメンの是正指導対象になる。まずこの取り組みから始め、今後実態を把握しながら、さらなる対策が必要かを検討したい。
―24年問題を乗り越えるため、特積み業界は重要な鍵を握る。
小熊 特積み企業はトラック業界をリードする立場。輸送網の集約、共同配送といった物流の効率化や、実運送体制管理簿の作成、下請け手数料の設定といった多重下請け構造の是正に向けた取り組みなどを前向きに進めてほしい。運賃では、実運送企業が適切なコストを収受できるよう、下請け手数料を含め荷主との交渉をお願いしたい。24年問題は一過性でなく構造的な課題。中長期的な視点で取り組む必要がある。国交省も関係省庁に加え、特積み企業をはじめ業界と緊密に連携し、対応していく。