インタビュー

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【 トラック特集・インタビュー  】

24年問題「連携」で乗り越え 全ては次世代のために

2024年03月26日

国土交通省
鶴田 浩久 物流・自動車局長

ドライバーの残業上限規制の適用まで残り1週間を切った。労働規制強化に伴う輸送力不足の懸念は「2024年問題」と呼ばれ、社会的な関心も高まっている。4月以降も持続可能なサービスを維持するため、国土交通省の鶴田浩久物流・自動車局長は関係者の連携をポイントに挙げ、「大切なのは次の世代のために頑張ること。容易な道のりではないが、乗り越えたい」とする。

―ドライバーの残業上限規制の適用が目前に迫っている。

鶴田 いろいろな気持ちが入り交じっているのではないか。懐疑的に見る人もいれば、新しい取り組みに意欲的な人もいるだろう。だが、1年前と比べて世の中の24年問題に対する関心は高まっている。NHKの年越しの番組でも物流が取り上げられていたが、物流の大変さへの共感が広がることは大事な一歩となる。

―不安は。

鶴田 社会的な共感を広げることができたのは物流の努力のたまもの。ドライバーが少なくなるから運べないと諦めていたら共感を得られなかった。ドライバーが日々汗を流して苦労していることを分かっているから、皆で何とかしなければとの思いにつながっている。

◆政府も対策推進

―昨年6月の物流革新政策パッケージの策定以降、さまざまな対策を講じてきた。

鶴田 24年問題に対応するための必要な対策を盛り込み、できることから速やかに取り組んでいる。例えば、昨年7月にはトラックGメンを創設した。年末には、(現下の物価動向などを踏まえた)新たな標準的な運賃の提言をまとめた。モーダルシフトや宅配便の再配達削減など、物流の効率化につながる対策については、予算面でも必要な支援を講じていく。

―手応えは。

鶴田 経済産業省、農林水産省をはじめ荷主業界の関係省庁と連携して取り組んできたことが大きい。それぞれの業界を所管する各省庁が24年問題の対応で連携し、物流を良くすることで、世の中全体も良くなるという考えを共有して動いてきた。

―新たな標準的な運賃では、運輸審議会が2月末に答申した。

鶴田 18年に議員立法で貨物自動車運送事業法が改正され、運賃設定と荷主対策で新たな扉が開かれた。まだ道半ばだが、この5年間はこれらを最優先に取り組んできた。一方、24年問題対策では物流効率化も重要。積み降ろし料や下請け手数料、個建て運賃の考え方などを盛り込み、効率化を進めつつ適正コストを収受できるようにした。

◆やめよう「価値の謙遜」

―適正運賃・料金収受を加速させる。

鶴田 前職の公共交通・物流政策審議官に就任以来、「価値を価格に」と言い続けてきた。物流企業はスピーディーで、高品質なサービスを提供しているにもかかわらず、価値を謙遜しているのではないか。荷主に直接言うことが難しい以上、客観的な立場から、国が目安となる水準を示すことに意味がある。

―業界からは、収受に向けたハードルが高いとの声も聞かれる。

鶴田 (新たな標準的な運賃を決める)検討会では、荷主・トラックそれぞれの立場の委員に入ってもらい、話し合ってきた。誰かが一方的に決めたものではなく、合理的な範囲でまとまったもの。運賃交渉時、互いが歩み寄るための道具としてほしい。

―4月以降、物流革新政策パッケージをどう進めていく。

鶴田 2月に開催された関係閣僚会議で、30年度に向けた政府の中長期計画をまとめ、詳細なロードマップ(行程表)を策定した。ここでも関係省庁が連携し、これから各省で人事異動があっても、継続して対策を進められる内容にした。毎年度フォローアップすることが決まっており、各部署でしっかり点検を行っていくことになる。

悪貨の良貨駆逐を防ぐ

―新たな対策の一つとして、規制的措置の適用に向けて動き出した。

鶴田 荷主・物流企業、トラック運送の取引、貨物軽自動車運送企業の3本柱で規制的措置を講じる。このうち、荷主・物流企業に対する規制では、物流効率化のために取り組むべき措置で努力義務を課し、さらに一定規模以上の企業は「特定事業者」に指定し、中長期計画の作成や定期報告などを義務付ける。

―着荷主にも規制をかけるのがポイント。

鶴田 当初は着荷主を法律で位置付けることができるか不安だったが、(国交省などの)若手チームの頑張りがあって実現できた。物流企業と同じく、発荷主も顧客である着荷主に物事を言いにくい。規制的措置では着荷主にも荷待ち・荷役時間の短縮、積載率向上などを求めており、画期的な内容になったと思う。

◆民間の知恵が鍵に

―関係者への周知はどう進める。

鶴田 ここも関係省庁との連携が重要になる。これまでは経産省、農水省、国交省の3省が中心だったが、例えば、医薬品・医療関係は厚生労働省、書籍は文部科学省など連携をより広げなければ対応できない。法案成立後、段階的に施行していくので、この間に関係者に周知していく。

―課題が指摘される中小荷主の対策は。

鶴田 法律では、まず特定事業者に中長期計画の作成などを義務付け、好事例を横展開することを考えている。だが、物流を効率化して負荷を減らす取り組みは、全ての企業に進めてほしい。中小企業でも良い取り組みは出てくるはずで、行政としても、お手本となる事例を支援したい。

―さまざまな企業からの好事例創出を期待。

鶴田 物流を効率化する知恵は民間の中にこそあると思う。行政が口を出し過ぎると、良い取り組みの芽を摘んでしまうかもしれない。前向きに考えれば良いアイデアを出す企業は必ずあり、応援できるような事例がたくさん創出されることを期待している。

◆見える化で課題解決

―規制的措置では多重下請け構造の対策にも踏み込む。

鶴田 実運送が適正な対価を収受できる体制を構築する。これまでは実運送に払われる運賃が手数料で目減りしたり、どの企業が最終的に運んでいるのかを元請けが把握できないなどの課題があった。契約過程が見えないため、対策を講じようにも手の打ちようがなかった。

―どんな対策を講じるのか。

鶴田 元請けに「実運送体制管理簿」の作成を義務付けるとともに、契約も口約束でなく書面化してもらう。多重下請け構造下で、どこに無理が生じているかを見える化することで、問題の解決に当たりたい。

―新たな標準的な運賃でも、下請け手数料を新設した。

鶴田 きれい事と言う人もいるだろうが、それでは困る。これまでは下請けに回すたびに運賃が目減りする引き算方式だった。実運送体制管理簿を通じて下請け構造の把握とコストの見える化を図り、実運送に必要な対価を払うことのできる運賃を収受してほしい。適正取引を阻害する恐れがあれば、トラックGメンが荷主などへの是正措置を行う。

◆短い時間で収入増へ

―4月以降も適宜対策を進める。

鶴田 24年問題は4月から始まるもので、不具合が生じた際、しっかり対応する体制づくりが重要だ。そのためには、関係省庁との間でも素早く問題を共有し、手を打つことのできる体制の整備が必要だろう。

―運送企業がしっかり法令を順守できているかのチェックも行う。

鶴田 悪貨が良貨を駆逐することは避けなければならず、そのために規制がある。企業にとって、「たくさん働きたい」「働かせてあげたい」という考えは自然だったが、今後は短い時間で多くの収入を得られる産業に変わることが、24年問題の根本的な解決につながる。

―物流業界も変わることが求められる。

鶴田 「今日が良ければいい」という目先のことだけを考えては、いずれ物流という産業に人が集まらなくなってしまう。大切なのは次の世代のためにも頑張ること。決して容易な道のりではないが、関係者全員で24年問題を乗り切りたい。

記者席 熱い気持ちで前へ

前職から数えて2年弱、物流に携わっている。それ以前は担当したことのない分野だったが、今では自身を「物流ばか」と呼んでしまうほど。熱い気持ちを持って物流のために仕事をしてきた。

物流は大転換期を迎える。業界では今後について不安を口にする人も多いが、鶴田局長は「若い世代にも物事は変わり得ることを体感してもらうことが重要」と前向きだ。将来のためにも、今の世代が頑張らなければならないと強調する。

以前から、荷主、物流企業、消費者の協力による「三方良し」の実現を繰り返してきた。だが、物流への関心が高まり、風向きが変わる中、目指すのはさらにその先。物流を良くすることで世の中全体がより良くなる「四方良し」「五方良し」の社会を見据える。