インタビュー

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【 全ト協・事業者大会特集特別インタビュー 】

〝信じ切る〟を成長の力に 一人一人の特長生かすため

2023年10月03日

野球日本代表「侍ジャパン」前監督 栗山 英樹さん

 監督として野球日本代表を率い、3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、3大会ぶりの世界一に導いた栗山英樹さん。北海道に住み、野球の後進育成に取り組む。選手の個性を生かすチームづくりの経験から、人手不足に悩むトラック運送業界に、「一人一人が持つ特長を生かしてもらうため、〝信じ切る〟ことを大事にしてほしい」とエールを送る。

 ―監督としてWBCで戦い、王座を奪還。
 栗山 日の丸を背負って代表を率いる責任と、野球関係者全ての思いを抱いて臨んだ。野球の発祥地・米国に対しては、倒したいという気持ちと共に憧れもあった。米メジャーリーグが大好きだからこそ、勝利したかった。
 ―選手選考が鍵に。
 栗山 結果はほぼ8割、選考で決まる。思い通りに選べれば自身の仕事は完了したようなもの。最も勝利しやすい形をイメージし、実力、スピード共に米国と堂々と戦える布陣を目指して、時間をかけた。

奪還へのチームづくり

 ―選手を思いやった。
 栗山 ファイターズ監督時代から、選手が幸せになるかどうかで判断してきた。選手を思いやれば、彼らも応え、組織のために頑張ってくれる。自分のためと判断すれば、どこかで踏ん張り切れなくなる。選手のために踏み出そうとすることで、乗り越えられた壁もあった。
 ―代表チームづくりのポイントは。
 栗山 各選手が持つ唯一無二の特長をいかに発揮できる環境をつくるか。例えば、守備の要となる源田(壮亮)や、走塁で鍵となる周東(佑京)といった勝ち切るために絶対的な特長を持つ選手を、真っ先に選出した。
 ―象徴も必要。
 栗山 全員が「さあ戦おう!」と思える象徴として選んだのが、(大谷)翔平とダル(ダルビッシュ有)だ。自分が現役なら共にプレーしたい。2人がいれば、負けたくないとさらに頑張ろうとする。少年のようにワクワクしながらプレーしてほしいと思い、選考した。
 ―結果、チームがまとまった。
 栗山 チームがまとまり、誇りを持って勝負してくれることが大事。企業経営で言えば、社長が働き掛けなくても、自然とまとまるイメージだ。

ケガで団結、世界一に

 ―大会中は転換点も。
 栗山 韓国戦での盗塁時に、源田が小指のケガをした。それでも彼が代表としてプレーを続けてくれたことが、世界一の大きな要因だ。他の選手も、彼に、自身を捨て命を懸けて臨む姿勢を見いだしたのだろう。
 ―米国との決勝では、それまで調子が優れなかった選手が活躍。
 栗山 (岡本)和真や村上(宗隆)のホームランで勝てたのはうれしかった。共に20代前半、プロ野球界で主軸となる選手だ。
 ―3回目の優勝で強さを示せた。
 栗山 「日本人は劣っていない」と証明できたのは誇り。元気をなくしている日本人を勇気付けたかった。底力を見せた選手たちに感謝しかない。
 ―選手をどのように見守ったのか。
 栗山 間違いなく能力がある。必ず結果を出してくれると信じ切った。人は他人からの信頼で安心し、能力を発揮できる。力の有無を問わず、打てる、抑えられると信じ切ってあげれば、選手も気持ち良くプレーできる。
 ―自身も経験。
 栗山 現役時代、指導者から「お前ならできる」と信頼されることを求めていた。監督生活を通じ、その大切さを実感した。
 ―選手を不安にさせないことを心掛けた。
 栗山 米国との決勝では9回表、投手変更と同時に(外野守備で4番打者の吉田)正尚と牧原(大成)を入れ替え、守備を固めた。「絶対に勝つぞ」と選手へのメッセージを込めた判断だった。
 ―1点リードの状況だった。
 栗山 普段なら、同点にされても勝ち切れる方法を考えるが、その時は違った。大勝負に出ないと、体格が大きい米国に勝ち切れないと感じた。
 ―コミュニケーションも重視。
 栗山 選手が本音で話してくれるよう、聴くことを大事にした。心がすっきりし、前進してもらえるからだ。コーチには選手に寄り添い、本音を聴いてと常に伝えた。
 ―話が得意でない選手もいたのでは。
 栗山 本音を出さず笑いもしない選手にも、話しづらいと思わず誠実に向き合った。気持ちは伝わる。注意した時、選手が反省したように低い声で返答してくれれば、ラッキー。コミュニケーションは、怖がらずプラスに考えることが大事。
 ―あいさつも基本。
 栗山 自分からのあいさつを心掛けている。笑顔でおはようと言って相手が無視した時も、「心では返してくれている。いつか声に出してくれる」と、本音で話せるきっかけになると考えた。

愛車は軽トラ

 ―企業経営も同じ。
 栗山 チームは選手のおかげで成立する。物流で言えばトラックドライバーは選手。信頼し合える環境づくりが大切で、人を大事にできない企業は滅んでしまう。
 ―トラック運送業界にエールを。
 栗山 野球の審判のように重要な仕事だ。生活や経済の基盤となる産業で、試合が行えるのも物流の力があればこそ。正当な対価はきちんと支払われて当然。皆が感謝していることに誇りを持って前に進んでほしい。
 ―愛車は軽トラック。
 栗山 荷物を多く載せられることが魅力。秋の北海道は雨のような朝露が降るが、そんな時も馬力を発揮してくれる。
 ―4日、全国トラック運送事業者大会が北海道で開催される。
 栗山 ファイターズ本拠地のエスコンフィールド北海道(北広島市)に来てほしい。世界中の球場を訪れたが、食事や観戦環境は随一だ。

記者席 物流は「かなりのプロ」

 野球にはグラブやバットといった多くの用具がある。試合時の運搬にトラックの力は不可欠。感謝の思いが強く、「かなりのプロフェッショナル」とたたえる。
 ファイターズは本拠地の北海道以外で試合する場合、ほぼ航空機で移動。物流では、航空機やトラックの手配、練習開始までに間に合わせる輸送計画の策定が必要になる。先に用具が球場に届いている状態に、「皆さんのおかげで試合ができている」。
 キャリーケースなどの私物も、ドライバーをはじめ物流企業のスタッフが「こちらが何を言わなくても誰の物かを把握」。球場のロッカーに間違えずに収納してくれる気遣いもあり、「素晴らしい」。
 自身の引っ越しも、「信頼している」と球団の物流の委託先に依頼。選手も、物流も信じ切る。