インタビュー

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【 社長インタビュー 】

これからも「変化」追求 就任10年、持続的成長を

2022年12月27日

福岡運輸 富永 泰輔社長

福岡運輸(本社・福岡市)の富永泰輔社長は2012年の就任から、10年を迎えた。冷凍・冷蔵物流のパイオニアとして業界をけん引し、グループの売上高は500億円を超えた。富永社長は「変化しなければ成長の歩みは止まる。顧客、社会に必要な仕事であり続けたい」と次の10年、20年を見据え、着実な成長を遂げる決心だ。

―就任から10年。
富永 「10年たったのか」が本音だ。何年に何があったといったことにあまり関心がない。
―当初から「変化」をキーワードに挙げている。
富永 永遠のテーマ。創業家出身の経営者は必然的に長くなり、この先10年、20年在職するだろう。年齢を重ねれば保守的になりがちだが、私自身が変わっていかなければ成長できない。組織も変化し続けなければ成長は見込めない。

設備投資に意欲、4拠点計画

―10年を振り返ると。
富永 設備投資額は1956年の創業以降でこの10年が最多。強みの食品物流では、ボトルネック解消が使命で拠点増設と雇用拡大を図ってきた。北海道~九州を網羅し、今後は各エリアの充実に着手する。
―具体的には。
富永 札幌、厚木(神奈川県)、鳥栖(佐賀県)、そして鳴尾浜(兵庫県西宮市)が2030年という計画はあるが、しゅん工時期を明確にする必要はない。冷凍・冷蔵需要の動向、建設資材の高騰などを加味し適切に判断する。初の試みで今年5月に開設した大阪茨木配送センター(大阪府茨木市)では、一部区画を貸し出すなどサービスの拡充を模索していく。
―物流不動産が冷凍・冷蔵分野に参入する動きが目立つ。
富永 マルチテナント型冷凍・冷蔵倉庫のイメージが現時点で浮かばない。物流不動産各社の規模には勝てないが、これまで培った品質、柔軟なサービスの提供など使い勝手の良さには自信を持っている。地道に積み上げ成長を続けるしかない。
―新型コロナウイルスなど環境も変化した。
富永 当初は瞬間的に大きく落ち込んだが、次第に緩やかに回復した。コロナ前と比べ残り1~3ポイント足りない印象がある。コロナ禍を通じて食品物流の底堅さを実感した。
―経営戦略に影響は。
富永 基本的に変わらない。定温サービスを安定的に提供する基本的な方針を貫いている。一方、実務や管理の変更はあった。オンライン会議の導入で、短時間の役員会議を開くなどコミュニケーションしやすくなった。また法律を順守するため中継輸送、フェリーの活用など時代に応じた対応は欠かせない。
―DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を策定した。
富永 19年に独自開発したバース予約・受付システムが試金石となり、大きな可能性を感じている。物流データとデジタル技術の活用で業務の効率化と全体最適化を実現していく。さらにコロナ禍で開発が加速したのが研修システム。スマートフォンで約1分の動画を視聴後、問題を解く気軽さもあり好評だ。

業界に危機感発信力高める

―次の10年は。
富永 成長を遂げ、注目を浴びる企業であり続けることに注力したい。企業の認知度を高めることは業界発展に貢献できると信じる。例えば(ドライバーの労働規制強化に伴う)2024年問題は業界の常識だが、世間の理解度は低い。ドライバーは貴重な存在で尊敬されるべきだ。運賃・料金の適正化で、見合った対価を受け取れるようにしなければ物流は止まる。そのためにも発信力を高めていく。

記者席 パイオニア精神、今も

創業者のパイオニア精神を脈々と受け継ぐ。約5年前、アリババグループトップの講演で「日本は市場ではなく、中国で売れる物を探す国」という、常識を覆す発言に衝撃を受けた。伊高級自動車ブランド「アルファロメオ」350台を33秒で完売した話題は胸に深く刻み込まれ、「発想が変わる」。
福岡運輸は冷凍・冷蔵物流の名門。20カ所だった拠点数はグループで26カ所に広がり、M&A、自社施設の賃貸などサービスの幅を広げている。就任当初の夢は海外だったがコロナ禍で事実上、中止に。「ロマンはある」と静かに構想を練っているかのようだ。
4年後は創業70年を迎えるが「運べなくなっているかもしれない」と危機感は強い。物流の安定化に向けて地元、業界のけん引役として今後の活躍に注目したい。