インタビュー

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【 社長インタビュー 】

宮崎の生命線つなぐ 来年度、新船就航へ

2021年10月19日

宮崎カーフェリー 郡司 行敏 社長

 四半世紀ぶりとなる新造フェリー2隻が来年度に就航する宮崎カーフェリー(本社・宮崎市)。6月、穐永一臣前社長から引き継いだ郡司行敏新社長は「地元・宮崎の思いがこもるとともに、将来へとつながる新船」と意義を語る。以前より重要視する貨物向けサービスの強化といった今後の戦略を聞いた。

 ―副知事から社長に転身した。
 郡司 2018年から社外取締役として関わり、新船の行く末を見守ってきた。2年前の県議会で建造を支援する議論に携わった当時は、いまの姿を想像していなかった。今年3月に副知事を退任し、県庁で培った40年分の経験と人脈を生かして新しい分野に挑戦する覚悟だ。
 ―待望の新船「フェリーたかちほ」が来年5月に就航する。
 郡司 待ちに待った新船だ。宮崎―神戸航路は、宮崎県をはじめ南九州の物流の生命線と言える。ドライバーの残業が厳格化される、いわゆる「2024年問題」は、消費地から遠い宮崎県にとって農産物や食品を輸送できるかの瀬戸際で、フェリーの重要性はより高まる。将来をつなぐ新船の就航を、1日でも早めたい思いを持っている。

大型化で需要増大に応える

 ―船腹は大型化し、積載能力が増える。
 郡司 積載できる大型トラック(12メートル換算)は約163台で、現行船と比べ約25%増えると同時に、車両甲板には電源プラグを増設する。午後7時台に出港し、翌朝に到着するダイヤは航路の強みで需要は底堅い。一方で、宮崎発の上り便は冬野菜、春野菜といった農産物の出荷が集中する時期には乗船できないケースがある。今回の大型化で解消できる見通しだ。
 ―ドライバーを大切にする姿勢を堅持する。
 郡司 そうだ。ドライバー専用室は完全個室化を実現し、疲れた体を船内でゆっくり休められるようになる。一般客と分離し、気兼ねなく利用できる専用レストランも継続する。乗下船口を2カ所に増やし、荷役時間は従来より短縮するなど貨物向けのサービスを強化する。

地元支援に日本一で恩返し

 ―代替えの計画から建造まで紆余(うよ)曲折があった。
 郡司 18 年に県、宮崎市、地元企業、政府系投資ファンド(基金)などが出資して現在の会社が誕生し、「オール宮崎」で支えられている。県民の期待に応え、県民から愛される新船を目指すことは使命だ。そこで3つの日本一を目標に掲げた。
 ―具体的には。
 郡司(1)安全、安心(2)おもてなし(3)地域密着―の3点。安全、安心は事業の根幹で、顧客との信頼関係を築く最も重要な武器と言える。利用客、荷主、トラック企業から選ばれるためには、全社員がおもてなし精神に磨きを掛け、地元から支持される新船でありたい。

記者席 「オール宮崎の象徴」

 県副知事の退任に際し、大学などあまたの打診があった中、「未知の分野」に飛び込んだ。生まれ育った宮崎の経済、物流を支える航路を次世代につなぐ願いもあった。上司だった河野俊嗣宮崎県知事から「頑張って」とエールを送られた。
 自らを「オール宮崎の象徴」と表現。今年は宮崎発着のカーフェリーが就航し50周年の節目を迎えたが、政府の高速道路無料化や燃料高と荒波の連続だった。現行船の代替えも一筋縄ではいかなかったが、地元の熱意が建造を後押しした。
 コロナ禍で、新船には反転攻勢の期待がより集まる。大打撃を受けた旅客部門では「船旅にはロマンがある」の考えを軸に置きつつ、「学びも入れたい」と業界外出身者ならではのアイデアも。果たしてどんなサービスが登場するか楽しみだ。