インタビュー

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【 第一貨物 創立80周年インタビュー 】

もっと顧客に寄り添い

2021年08月31日

第一貨物 米田 総一郎 社長

 自前主義をベースに顧客に寄り添ったサービスの提供を使命とする第一貨物(本社・山形市、米田総一郎社長)。3月15日に創立80周年を迎え、また一歩、100年企業に近づいたが、直近10年の道のりは困難の連続でもあった。「特積みの基盤再構築を急ぐとともに、領域拡大、ロジスティクス強化も見据え、新たな歩を進める」と米田社長。同社の過去・いま・未来を聞いた。

困難乗り越えた10年特積み基盤を再構築

 ―今春80周年を迎えた。
 米田 当社は実輸送、自前主義をベースとして日々輸送品質の改善を図り、顧客ニーズに合ったサービスを提供していくことを使命としてきた。足元では、コロナ禍の終息にはまだ時間がかかりそうだが、創立70周年の直前にも当社は、未曽有の大災害といわれた東日本大震災を経験した。そのような中で無事、創立80周年を迎えられたのは、従業員、顧客をはじめとした皆さんのおかげ。深く感謝をしている。
 ―この10年は決して平たんな道のりではなかった。
 米田 特積みを主力とするトラック系事業は、過去10年では経常利益率が1%未満にとどまった年が大半だった。最大要因は、ドライバーの採用難で外部戦力に依存し、高コスト構造になっていたこと。リーマン・ショック翌年度の2009年度に537億円だった事業売上高は19年度に620億円と83億円増えたが、この間、正社員数は380人純減した。輸送品質を維持するため外部戦力に頼らざるを得ない構図となり、集配委託料と臨時要員費の割合は09年度に対売上高8・5%の46億円から、19年度には13・3%の82億円と4・8ポイントアップした。

利益率高め処遇改善へ

 ―そこでコロナ禍に直面。
 米田 物量が急減したことで、外部戦力を大胆に絞る決断ができた。同時に採用環境に追い風が吹く中、「週2休制」と呼ぶ平日を含む完全週休2日制に移行したことで採用競争力が高まり、内製化に向けた千載一遇のチャンスが到来しているとの環境認識だ。内製化を、昨年度を含む約3年間、残り2年ほどで強力に推し進めていく。その結果、同業他社と同等の経常利益率、少なくとも4%程度を常に確保できるようにして、全てのステークホルダー(利害関係者)に満足してもらえる企業となっていけるよう努める。

 ―集配ドライバーは顧客との接点を担う存在だ。
 米田 「セールスドライバー」というように、当社の看板。極力全て内製化することで、輸送品質を改善し、顧客満足度の向上にもつなげていかなくてはいけない。
 ―コスト構造改革や品質改善に加えて取り組むべきことは。
 米田 一番肝心なことは、従業員の処遇改善だ。処遇についても同業他社に比べて見劣りすることがないよう改善を図り、採用競争力をさらに高めていきたい。将来を見据えたとき、まずはトラック系事業で主力の特積みをいかに再構築していくかが課題。今年度が正念場と位置付けている。
 ―改革の契機となったコロナ禍は市場をも急変させている。
 米田 BtoC(個人向け)ECが急拡大している。恐らく元には戻らず、BtoCECに行ってしまった物量は、確実にBtoB(企業間)の特積み市場から消える。特積みの再構築は絶対にやらなくてはいけないが、企業として業容を維持・拡大していくためには、それだけでは立ち行かなくなる恐れがある。輸送と保管や流通加工を一体的に提供するロジスティクス事業の拡大にも改めて取り組む必要がある。新しい事業領域の開拓も必要で、22年度から始まる次期中期計画の策定に向けてしっかりと方向性を見いだしていく。

利益体質づくりの先にサービス安定供給

 ―幹部・従業員には創立80周年の節目にどんなメッセージを。
 米田 最低でも経常利益率4%を常に稼ぐ企業になるということが1つ。もう1つは、100周年に向けて業容を維持・拡大できるような企業になっていかなくてはいけないということ。その2つを見据えて、一丸となって頑張っていこうと投げ掛けていきたい。
 ―新領域についてヒントは。
 米田 例えば、既存の顧客から「もっとやってもらえないか」といった相談を受けていながら、やり切れていない部分がある。本当にできないのか、何か方法があるのか、もっと顧客に寄り添いながら事業の裾野を広げていきたい。特積みに限定せず、トラック系事業という、より広い意味で幾つかの可能性はあるとみている。

 ―「東京プロジェクト」は計画通り、順調に進んでいる。
 米田 昨年9月、江戸川区に新東京社宅がオープンし、東京支店(東京都江東区東雲)隣接の旧社宅を売却した。今後、東京支店の売却益と合わせ、新東京支店(同江東区塩浜)と新山形支店(山形市)、社宅2棟と整備工場の投資費用をほぼ賄うというのが同プロジェクトの趣旨。埼玉県吉川市で4月に稼働した新埼玉整備工場は最新鋭設備を整え、新設社宅と相まって、来年春専門学校を卒業する整備士の採用にもつながっている。9月しゅん工の山形支店は従来3カ所に分散し、集配機能も分離していたが、統合により車と人の動きが効率化できる。2階の定温倉庫も満床となる見通しだ。

貨物の番線、端末で表示

 ―DX(デジタルトランスフォーメーション)でも動きが。
 米田 DXと呼べるかはともかく、ドライバーが集荷した荷物をホーム上で仕分けする際、スマートフォン一体型のハンディー端末でデータを読み取ると、何番線に持って行くよう画面表示される仕組みを、この6月に稼働させた。純減傾向だった集配ドライバーが昨年度は純増に転じたことで、早期の戦力化という新たな問題が出てきた。こうした点でデジタル技術が活用できないかと考える。