インタビュー

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【 社長インタビュー 】

丁寧に課題聞き取る 地道な営業活動が鍵

2021年08月10日

近海郵船 関 光太郎 社長

 4月に田島哲明前社長のバトンを受け継いだ関光太郎社長。新型コロナウイルス感染拡大の終息の見通しが立たない中での就任となった。厳しい経営環境が続くが、関社長は「顧客の課題を丁寧に聞き取り海上輸送のメリットを地道に伝えることが大切」と話す。

 ―4月に就任した。
 関 社長就任を打診されたのは今年1月末。正直、驚いた。新型コロナの感染拡大の影響で、本来就任直後に行う取引先へのあいさつ回りや、各地の自社営業所の訪問ができていない。仕方ないことだが、やるべき仕事ができていないため落ち着かない心境。
 ―内航は初めて。
 関 そう。日本郵船では一貫して外航海運の配船を行う仕事に関わってきた。入社から16年間は南米、アフリカ、アジア・オーストラリア向けの定期コンテナ船、その後17年間は自動車専用船を担当した。
 ―経営の方針は。
 関 これまでの経験は当てにならないと考えている。内航と外航は別物で、最初から勉強しなければならない。安全運航、荷役品質の向上、法令順守を軸に、顧客の声や従業員の意見・考えを聞き取りながら事業の拡大を目指していく。

荷動き19年度にまだ届かず

 ―荷動きは回復途上に。
 関 既存航路の荷動きは、2019年度の水準には及ばないが前年度と比較すると悪くはない。太平洋側の苫小牧(北海道)―常陸那珂(茨城県)航路は日用品の他、今月以降は農産品の出荷が期待できる。東京―大阪―那覇航路は日用品、食料品の取り扱いはあるが、建築資材などのプロジェクト貨物の輸送は少ない。
 ―日本海側航路は。
 関 苫小牧―敦賀(福井県)航路は堅調に推移している。夏以降は特に北海道発の農産品が活発に運ばれるとみている。敦賀―博多(福岡市)航路は、半導体不足に伴う生産縮小で自動車関連が伸びていない。中京、関西、九州は陸続きのため船から陸送に回帰する〝逆モーダルシフト〟も見られ、状況は難しい。
 ―利用拡大に向け何に取り組む。
 関 軸になるのは、(トラックドライバーの労働時間法令が強化される)「2024年問題」と脱炭素。2点を中心に顧客の課題を聞き取り、海上輸送の利用で得られる効果を具体的に伝える提案型の営業活動に力を入れていく。

海上アンモニアやLNG視野に

 ―具体的には。
 関 24年4月から年960時間の残業上限規制が適用され、トラックによる長距離輸送が難しくなる。そこで長年推進してきたRORO船による無人航走がメリットを発揮する。運航している5隻は電子制御エンジンを搭載し、二酸化炭素の排出量を削減している。顧客の環境負荷低減の取り組みにも貢献できる。こうした点をアピールし、地道に営業と重ねることが重要と考えている。
 ―設備投資はどうか。
 関 東京―大阪―沖縄航路に就航する1隻を22年頃に入れ替える計画。その後の代替えの計画はないが、50年のカーボンニュートラル(炭素中立)達成を見据えると、LNG(液化天然ガス)やアンモニアを燃料とする船の投入を視野に検討していかなければならない。
 ―利用しやすい環境整備する。
 関 セミトレーラーを所有していない顧客がRORO船を利用できるよう環境を整備している。自社で管理し貸し出すことができるウイングセミトレーラーは現在1200台。需要に合わせて台数を増やしていく。

記者席 初めての内航海運

 関社長は内航海運という新天地で勤務するに当たって改めて「一所懸命」の言葉を胸に刻む。
 外航海運で33年の勤務経験を持つが、内航海運との接点は全くなく「ほとんど素人と言っていい状態」で、就任の話を聞いた時は「まさに晴天の霹靂(へきれき)だった」。
 内航海運業界への理解を深めるため、各地の顧客や自社の営業所を回って対面で話し、課題を聞くことが理想だが、新型コロナの感染拡大で訪問ができないことが残念なところ。
 当面は、可能な範囲で顧客や従業員と話をしながら、意見や考えを真剣に聞きながら勉強の日々が続く。