インタビュー

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【 インタビュー 】

「長時間労働の是正を」 荷主含め取引環境の整備

2015年05月19日

近畿運輸局 土屋 知省 局長

 近畿地方は人口2000万人を抱え、首都圏に次ぐ経済規模を誇る。事業者は人材不足が深刻化する中で、安定した輸送力確保の模索を続ける。労働条件の改善や荷主を含めた物流の在り方など業界課題への取り組みを、土屋知省近畿運輸局長に聞いた。 

労基法改正はインパクト大

 ――近畿経済をどう見る。
 土屋 近畿地方は、日本が抱える諸課題の影響が首都圏に比べて大きく反映される。例えば、安倍政権が進める経済政策アベノミクスによる製造業の国内回帰、個人消費の動向が顕著に表れる。
 ――業界の現状は。
 土屋 全日本トラック協会がまとめた近畿地方のトラック運送業界の平成27年1~3月期景況感の見通しは、前回比3ポイント減。関東や中部並みの指数だ。「荷動きは今年に入り横ばいが続く」と話す近畿各府県ト協や物流事業者は多い。物流業への景気回復の波及はこれからだろう。
 ――深刻化するドライバー不足の対応は急務。
 土屋 長時間労働の改善に取り組む。労働基準法の改正で、時間外労働が月60時間超の場合、5割以上の割増賃金を支払う義務が中小企業にも平成31年4月以降、適用される。事業者、荷主には相当インパクトがあるだろう。
 ――具体的には。
 土屋 近畿運輸局では7月中に「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」を各府県で立ち上げる。荷主と物流事業者の適正取引を検討した物流パートナーシップ会議を発展させて取り組む。長時間労働の要因には、手待ち時間、非効率業務などが挙げられる。荷主の理解を得つつ、取引環境の整備につなげたい。
 ――ドライバーの高齢化が進む中、若年層の呼び込みは重要。
 土屋 3K(きつい・汚い・危険)のイメージを脱却したい。今夏までに物流業界と近畿運輸局で学校訪問を計画。滋賀県は滋賀ト協などと連携し、運輸事業振興助成交付金を活用した人材確保を含めた事業を展開。また、職場体験を通じて業界の理解を深めるなど模索しながら進める。
 ――女性ドライバーの活躍は。
 土屋 経営者の「トラック=男性」の固定概念を覆さなければならない。女性ドライバーはわずか2.4%。荷役作業や業務形態は障壁だが、自動化や労働時間削減で対応可能ではないか。人材不足が改善することは考えにくく、女性や高齢者が活躍できる環境に対応した事業者が生き残れるだろう。

参入審査強化で健全性確保

 ――行政処分の基準改定後の運用は。
 土屋 安全や事業の適正化を達成する行政手段の1つ。管内では4月、事業停止30日の処分を科した。一方で、処分の軽減化・緩和も行っている。法令講習や新規参入業者の審査強化などで業界の健全性を保ちたい。
 ――南海トラフ地震の発生が想定される。
 土屋 平成23年度から近畿2府4県、政令市、関西広域連合、ト協、倉庫協会、物流事業者などと協議会を立ち上げ検討を重ねた。阪神・淡路大震災や東日本大震災で救援物資が滞ったことを踏まえて、民間事業者の集積拠点とノウハウを活用しようとする。今後、保管や配送面で具体的な課題を洗い出し、訓練など検証を重ね官民の連携を強めていく。

(略歴)
 土屋 知省氏(つちや・ともみ)昭和34年6月16日生まれ、55歳。静岡県出身。57年東大法卒、運輸省(現・国土交通省)入省、平成16年中部国際空港経営企画部長、18年自動車交通局技術安全部管理課長、22年総合政策局総務課長、23年警察庁長官官房審議官、25年鉄道局次長などを経て、26年7月近畿運輸局長。(遠藤 仁志)