インタビュー

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【 どうなる?トラック特集 特別インタビュー 】

地方分散の時代が来る

2020年10月13日

経済アナリスト 森永 卓郎さん

新型コロナウイルス流行の影響で停滞している日本経済。先行きはどうなるのか。経済アナリストの森永卓郎さんは、新型コロナの感染リスクを避ける動きが加速していることを背景に、「従来の大都市一極集中から人口や経済活動の地方分散が進み、社会構造は変化する。物流の可能性はますます大きくなるのではないか」と話す。

―足元の日本経済をどう見る。
森永 内閣府によると、日本のGDP(国内総生産)は4~6月期で前期比マイナス28・1%。前年同期比ではマイナス9・9%で、1年前と比べるとGDPが1割落ちたことになる。景気が後退局面にありながらの消費税引き上げと、新型コロナ流行の2つが主因と考えている。
―いまも新型コロナの感染拡大が続いている。
森永 消費など経済へのマイナス影響が長引いている状況だ。今後、感染の〝第3波〟が到来することを想定すれば、さらに大きな影響として、感染すれば重症化しやすい高齢者を中心に大都市から避難する動きが始まるのではないか。

東京都の人口が減少

―地方への人口分散が進むと。
森永 例えば、長年続いてきた東京都への一極集中に変化が起きつつある。これまで増えてきた都の人口は、6月に前月比3405人減となり、8月も同5903人減少した。東京23区に比べ感染リスクが低い北関東などの地域への人口移動が進展する可能性は高い。
―リモートワークも進んでいる。
森永 都内では、IT企業が多い渋谷区を中心にオフィス空室率が上がっている。東京以外や会社から離れた所でも働こうという動きが背景にある。インターネット通販で全国どこでもモノが買える環境にもあり、東京、大阪など大都市一極集中の構造は変化せざるを得ない。
―賃金減少にも拍車。
森永 9月までの安倍晋三政権の約8年間で10%減少した実質賃金は、新型コロナの影響でさらに低下した。都内で高額な家賃を払い続けられず地方へ移動する人も増えてくる。また、ふるさと回帰支援センター(千代田区)では地方移住の相談件数が爆発的に増加したと聞く。新型コロナは地方分散が加速する第1ステージだろう。

豪雨や地震のリスクも

―第2、第3の要因があると。
森永 (近年頻発化している)豪雨も大都市にとっては大きなリスク。地球温暖化の進展で自然災害が起こる可能性は高くなっている。線状降水帯による豪雨が東京を襲えば、23区の3分の1が水没してしまう予測がある。今後発生し得る首都直下型地震も東京にとっては最大の問題。首都高速道路の老朽化など不安な要素を抱えている。
―物流企業はどう対応すれば。
森永 大都市から地方への分散が進めば、物流の必要性はさらに高まる。生産拠点や消費地が全国に散らばれば、大都市集中型ではなく各地方都市間を結ぶ物流ネットワークが求められるようになる。効率的な輸送ルートと保管場所の組み合わせを考えるとともに、さらなる効率化につながる物流の共同化を荷主に提案する力がますます求められるのではないか。
―災害対策も鍵に。
森永 災害時を含め人々の暮らしをどう支えるかを考えることが物流業界最大の責務だ。道路寸断時の代替輸送ルートの構築や倉庫・駐車場の移設など、避難訓練と同様に事前にシミュレーションを行っておくことが大切。倉庫も、水没する恐れがある場所に建設することを避けるべき。普段からの予測と対策の構築が欠かせない。
―臨機応変さが大事。
森永 例えば、羽田・成田空港を発着するリムジンバスはドライバーが渋滞情報を見ながら、本部と無線で情報交換し、柔軟にルートを組み替えている。関東で言えば、新東名高速道路など代替になり得る輸送ルートが豊富にある。物流企業が主体的に代替輸送ルートを含めたサプライチェーンの在り方を荷主に提案することも大事になる。
―一方、人材確保と荷主との取引適正化が業界の喫緊の課題。
森永 人材の確保へは幅広い考え方で臨んでみてはどうか。いまのトラックはパワーステアリングが装備され、女性も運転しやすくなっている。中長期的な観点では、(技術開発が進んでいる)自動運転をどう活用するかも重要になる。

標準運賃は一歩前進

―取引適正化に向けては、今年4月に国土交通省から「標準的な運賃」が告示された。
森永 業界にとっては一歩前進だ。新型コロナの影響で物流コストの削減に動く荷主があり、(交渉を進めるには)厳しい状況が見込まれるだろうが、そもそも物流のない社会はあり得ない。物流の高度化に対応しながら、いかに適正な運賃・料金を収受していくかが大事。特に荷主の不当な買いたたきは、独占禁止法で優越的地位の乱用に該当する行為で許してはいけない。業界で団結し、政府にしっかりと伝えるべきだ。
―トラック運送はじめ物流業で働く人々はエッセンシャルワーカー。
森永 新型コロナ下でも動き続けている物流は国民の生活を支えるという意味で、医療従事者と同等、またはそれ以上に大切な役割を担っている。業界はそのことを世の中にもっと強く発信してほしい。BtoBの物流がなければ、スーパーやコンビニで商品が買えなくなることは消費者も考えれば分かるはず。宅配便や郵便が届かなければ、われわれの生活は成立しなくなる。多くの課題を抱えていることを含め、社会全体に理解してもらう努力を惜しまずPRすることが不可欠。
―前向きに進むことが大切。
森永 そうだ。新型コロナを機に、大都市一極集中から地方への分散が進み社会構造が変化していく中で、物流の可能性はますます大きくなる。日本経済を〝縁の下の力持ち〟として支えていることを誇りにして、アフターコロナに立ち向かってほしい。

記者席 趣味で感じた通販の勢い

森永さんの趣味の一つは「ミニカーの収集」。近年はこの趣味で、通販の勢いを実感。中学生ぐらいまでは百貨店でミニカーを購入していた。百貨店でしか販売されていなかったためだ。「当時は百貨店に行けば、商品が何でも手に入り、東京が有利だった」だが、現在は百貨店のミニカー売り場が縮小しており、専門店か通販でしか購入しなくなった。
昔の百貨店は、多様な種類のミニカーを手に入れられることが売りだったが、通販でどれも購入できるようになった。その結果、「通販の方が百貨店よりも大きな勢いがあると実感。市場がネットに集中しつつある」。
ラストワンマイルで配達先が増加するため、物流には「大きな負荷がかかるが、東京一極集中ではない世の中に変化していく」。