インタビュー

【 社長インタビュー 】
「いま」に満足せず変化 時代に合うサービス構築

2020年07月28日
商船三井フェリー 尾本 直俊社長
6月に大江明生社長(現・特別顧問)からバトンを受け継いだ、商船三井フェリー(本社・東京)の尾本直俊社長。新型コロナウイルス感染拡大の中、厳しい経営環境下で就任となったが尾本社長は、社会や業界の変化を捉え「いまが最適な状態だとは考えず、サービス内容や業務の進め方を時代に合ったものに変化させていきたい」と話す。
―就任した感想は。
尾本 商船三井ではコンテナ事業などを経験してきた。外航と内航の違いはあるが、いままで船に関連した業務に携わっていたこともあり、船会社の社長を務められるのは非常にうれしい。
―足元の市況は。
尾本 貨物輸送では、苫小牧(北海道)―大洗(茨城県)、東京―博多(福岡市)、東京―苅田(福岡県)の3航路の4~5月の荷量は前年比で10%程度落ち込み、先行きが見えない状況が続く。旅客輸送では、苫小牧―大洗航路の利用者数は前年4~5月に比べ80%の減少になっている。
―今後については。
尾本 再び全国に緊急事態宣言が出された場合などを想定し、事業への影響や貨物輸送にどんな変化があるのかなど、ビジネスへのあらゆるリスクを考慮したシミュレーションを行っている。
―変化が重要。
尾本 船はサービス業。いまが最適な状態だと思わないことが大切だ。内航は外航に比べ運賃、航路、企業間連携といった環境の変化は少ないが、5年、10年と長期的に見れば変わってくる。サービス内容はもちろん、仕事のやり方も含め時代に合ったものに変化させていかなければ、経営は継続できない。
―この数年は積極的な投資をしている。
尾本 新造船の計画については、苫小牧―大洗航路の深夜便の代替えを検討している。是が非でも実現したい。また、九州方面の航路に就航するRORO船の中には、船歴が20年に近いものがあり、将来的には代替えも検討する。
積極的なアプローチが必要
―モーダルシフトの需要をどうみる。
尾本 トラックドライバー不足を背景に拡大しており、自社航路の利用も増えている。さらに拡大の余地はあり、積極的なアプローチが必要だ。
―具体的には。
尾本 単純に運航スケジュールや全体の所要時間を紹介する営業ではなく、「何時に出荷したら何時に配送先に届けることができるのか」という具体的な提案をしていくことが必要だ。
船内のデジタル化にも意欲
―環境負荷低減とデジタル化を進める。
尾本 環境負荷の低減は船社の取り組むべき大きな課題。これまでも対応を進めてきたが、最終的な目標は「環境負荷ゼロ」だ。商船三井と協力して対応を進めていく。船内のデジタル化の必要性を感じている。例えば、利用者に提供しているインターネット通信環境は十分とは言えない。世間で注目されている5G(次世代通信規格)の導入とまではいかないだろうが、改善をしていきたい。
記者席 チャレンジを大切に
尾本社長は「なせば成る、なさねば成らぬ」を座右の銘とする。江戸時代の上杉鷹山の言葉だ。行動を起こし、挑戦する重要性を説くもので経営姿勢にも表れている。新型コロナウイルスの感染拡大など、事業に影響を与える外的要因が数多く発生。こうした状況の中では手堅い経営も確かに重要だが、事業が発展する確実な保証もない。「ビジネスではリスクが伴うことは当たり前。挑戦する攻めの姿勢を大切にしたい」とする。
趣味のアルトサックスは50歳を過ぎてから始めた。「中学校時代から挑戦してみたいと思っていた夢を実現させた」。特にスタンダートなジャズが好きで演奏を披露する機会もあるという。