インタビュー

【 全ト協・事業者大会特集 特別企画インタビュー 】
技術の可能性は無限大 物流進化の余地 十分に

2019年10月01日
ロボットクリエーター 高橋 智隆さん
小型のコミュニケーションロボット(会話できるロボット)を多数製作し、世に送り出しているロボットクリエーターの高橋智隆さん。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)活用の機運が高まる物流業界にも興味を持ち、「ロボットや技術を導入できる可能性は無限にある。進化の余地がある面白い分野だ」と話す。
親近感こそがヒト型の利点
――ロボットクリエーターとは。
高橋 学術研究の対象としてではなく、世の中で使ってもらえる製品としてロボットを開発していこうと考えて付けた肩書きだ。ロボットを製作し始めたのはもともとロボットが好きだったから。市場やニーズが顕在化していない頃はサイエンスアートや趣味の領域だったが、ロボット活用への期待が高まるにつれ、職業らしくなってきたなというのが実感だ。
――一貫してヒト型ロボットを開発。
高橋 ヒト型ロボットには、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)に代わる次世代のコミュニケーションツールとなる可能性がある。孤独や日常を共有できない寂しさを紛らわせるため、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に情報を大量に投稿したりする人も多い。そうした誰かとつながっていたい欲求が、擬人化されたロボットとのコミュニケーションで満たされるかもしれない。ヒト型ロボットを個人向けコミュニケーションツールとして開発し、世の中に普及させることが最終目標だ。
――人とのコミュニケーションがメインテーマ。
高橋 そうだ。人が親近感を持って対話できることこそがヒト型ロボットの利点と考える。活用法を模索する中で、何ら物理的な作業には適していないと感じた。ほうきとちり取りで掃除をさせるより、掃除ロボットに任せた方が断然速い。なので、スマホの通信インフラなどを活用しつつ、ロボットがコミュニケーションを取るために必要な機能に特化して開発している。
――スマホとロボットの違いは。
高橋 スマホは道具に過ぎないが、小型ロボットであれば一緒に移動して体験を共有することができる。撮影した写真を見ながら旅先の思い出話をする、というふうに。
「相棒」のような存在に
――機能はどんどん進化している。
高橋 使う人によって振る舞いが変わるようにしている。その人がおしゃべりなのか寡黙なのか、何に興味があるのかといった情報を学び取り、カスタマイズされていく。いまは、ロボットが覚えた人の問い掛けに対する返事を、他のロボットと共有できる仕組みをつくっている最中。それぞれのロボットが学習したことを集約して、再分配できることがロボットの強みでもある。
――ヒト型ロボットの理想像は。
高橋 主従の関係がなく、気を使わず会話ができる相棒のような存在を目指す。そばに居て知恵を貸してくれたり、一緒に旅をしてくれたりするイメージだ。「ゲゲゲの鬼太郎」の目玉おやじ、「魔女の宅急便」に出てくる黒猫のジジといったキャラクターを想像してもらうと分かりやすい。
人不足は是正のチャンス
――ロボット開発で注意すべき点は。
高橋 モノづくりや作業支援、教育、コミュニケーションなど、ロボットにはさまざまな用途があり、それらを一緒くたに考えて開発すると失敗に陥りやすい。例えば、冷蔵庫にしゃべらせる必要はないわけだ。ロボットに実用性を求めるのであれば、特化した機能を持たせていくべき。同時に、どこまでロボットに担わせるか、人が行う作業を代替させるだけでよいのかを問いただすことが重要になる。
――物流業界では自動化やロボット化の機運が高まっている。
高橋 物流はロボットが活躍できる分野として私も興味を持っている。自動運転技術などを含め可能性は無限にある。トラックに限らず自動車にロボット端末を載せ、車両との情報授受に活用できないかというのは、面白いテーマの一つだ。ロボット業界には宅配ボックスの開発に携わっている人もいる。
人の行動・意識を変化させる
――EC(電子商取引)物流では先進的な実例も。
高橋 アマゾンが倉庫内に導入したキバ・システムズ(現アマゾン・ロボティクス)のロボットは一つの成功例。従来の自動倉庫のように商品を種類ごとに整理整頓することなく、入荷した商品を次から次へ空いている棚に格納していく。ロボットはどこに何を置いたかを全て覚えているから、あえて整理整頓する必要がない。人がやっていた方法と違う仕組みを基に設計したことが、効率化のためには最良だったというケースだ。
――人間の弱みをロボットが補完してくれる。
高橋 そう。人がやっていた作業をそのままロボットに代行させればよいわけではない。人とロボットの得手不得手の違いを正しく捉えた上で開発・導入していかないと失敗するだけだ。
――導入する側の意識改革が欠かせない。
高橋 ロボットや技術を導入することで人も変化する。ロボット掃除機が動きやすいように、人が普段から部屋を片付けるようになるのはまさにそう。ロボットや技術が人の行動・意識をどう変えるかを予測しながら、利点と課題を抽出していくことが大事。それが人とロボットの良い関係を築く鍵になる。現場で働く人たちにどう使いこなしてもらうかまで考えた上で導入していくことも大切だ。
工夫しがいある面白さ
――物流業界はトラックドライバーの不足に悩まされている。
高橋 見方を変えれば憂える状況ではないと思う。技術の導入を進めたり、賃金体系を改善したり、古くなった商習慣を改めたり。ドライバー不足は是正への力が強く働くきっかけになる。
――むしろチャンス。
高橋 そうだ。ドライバーに多様なサービスを押し付け過ぎではないかと感じることがある。ロボット導入によって解決する課題もあるのではないか。逆に、ロボットや技術を用いなくても改善できることも多い。集配所の動線を変えるだけでの作業量は減らせる。ハイテク・ローテク両方の工夫を重ねることで進化の余地が十分にあると思う。
記者席 ディテールこそ完璧に
「ロビ」「ロボホン」「キロボ」「エボルタ」…。製品化されたものを含め開発した2足歩行のヒト型ロボットは多数。東大先端研にも研究室を構える。重視するのは、「動きやしぐさ、会話の内容、大きさ、など外観だけではない総合的なデザインとディテール(細部)を完璧に仕上げること」。原型も手作り。「面倒な作業を要するが、少しでも不自然な部分があると、人はそのロボットに嫌悪感を持ち、感情移入ができなくなってしまう」
新たな挑戦も。今年5月、船舶など水上交通の自動航行技術を開発する会社「Marine X」を仲間と設立。「自動車に比べ、特にプレジャーボートは技術の進展が遅れている。だからこそ面白い」。安全で楽しいクルーズを支える、耐久性と信頼性を兼ね備えた技術の開発に取り組む。