インタビュー

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【 創刊70周年特別インタビュー 】

経済はどんどん元気に 〝オンリーワン〟に自信を持て

2018年08月21日

武者リサーチ 武者 陵司代表

 2020東京五輪後を悲観する経済観測があふれる中、「史上最大のメガ景気がやってくる」と武者リサーチの武者陵司代表。デフレ経済下で負の遺産を整理し〝オンリーワン〟の競争力を身に付けた製造業や、インバウンド(外国人旅行客)で脚光を浴びるサービス業の好調を背景に、「日経平均株価10万円」時代が到来するとみる。物流についても「ドライバー不足の中で価値が見直され、運賃は上昇する」と予測。10年後の業界は明るい。

 ――今後の日本経済をどう予測する。
 武者 デフレを脱却し緩やかに成長していく。経済のがんはもはやなくなった。ハイテク産業で稼いでいた経済はバブル崩壊後、超円高、米国の日本たたき、韓国や台湾の台頭で2000年ごろまでは加速力を失っていたがその後、稼ぐ力を回復した。日本にしかできない品質・技術の領域を開発し、独占的に供給して利益を得る〝オンリーワン〟のビジネスモデルを企業が打ち立てたからだ。

実は日本製品の力

 ――まず製造業では何が起きたか。
 武者 一見すると日本はアジアの劣等生。テレビもスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)も半導体も中国や韓国が主導権を持つ。だが各国がそれらの製品を造れるのは、周辺と基盤の分野で日本の技術が供給されているから。例えば、周辺分野ではデジタル機器を機能させる半導体の処理情報の入力をつかさどるセンサーなどのインターフェース、基盤分野では素材、部品、装置などがあり、半導体の素材ウエハー(集積回路の基盤)は日本メーカーの独壇場だ。
 ――サービス業でも顕著な変化が。
 武者 インターネットの普及に伴い人々のライフスタイルはがらりと変わった。ネット経由でモノが購入されるようになり、店舗までだった物流は個人宅まで必要になった。またインバウンドは内需をグローバル需要につくり変えた。料理、安全、おもてなしのレベルは世界一で、築1000年以上の奈良の法隆寺のような歴史的建造物も豊富。
 ――そうした日本の良さへ世界の注目度が再び高まるのが。
 武者 東京五輪だ。経済、文化への評価、リスペクトがぐっと高まる。

稼いだ富が回りだす

 ――企業が稼いだ富がようやく回りだす。
 武者 日本企業の稼ぐ力はおそらく史上最高の域にある。問題は、富を再配分し消費や投資につなげ人々の生活を向上させるメカニズムが機能していないことだった。これを変えようとするのがアベノミクスで、お金の使用を先送りして貯蓄するデフレ心理からの脱却が決定的に重要な鍵になる。東京五輪に加え、新天皇が即位されることで、「困難な時代から新たな飛躍の時代を迎える」との雰囲気が生まれ、自信がついてくる。
 ――日経平均株価も本来の水準を取り戻す。
 武者 新天皇の時代、年率10%で株価が上昇すれば15年後の2034年には10万円を突破する。気掛かりは、中国経済の深刻な危機と、極めて長期間好調な米経済のリセッション(景気後退)。向こう5年程度の間に2つが重なれば、日本経済もダメージを受ける可能性はある。

物流に微笑む未来

 ――製造業に影響の大きい為替の動向は。
 武者 長らく弱かったドルが強い時代に入る。グーグル、アップル、アマゾンが提供するIT(情報技術)プラットフォーム(基盤)を含めイノベーションや新技術はいまや米国発。米経済は圧倒的に強くなった。対外債務が減り、強まるドルの下で、米国の世界への影響力も増していく。一方、日本の競争力も米国ほどではないが高く、ドル円レートは穏やかな円安基調に。仮に130円程度の円安ならば、企業収益にはプラスに作用し、輸入物価上昇のマイナス影響も軽微にとどめられる。
 ――物流をどう占う。
 武者 運賃の値上げが進む。デフレ脱却の動きはまだぜい弱だが、コストプッシュで変わろうとしている。物流業界ではトラックドライバーの確保に向けて、安い給料ではダメだと原資となる運賃が引き上げられている。失業率は3%を切り有効求人倍率は1.6倍超。労働需給は歴史的にもタイトだ。

輸送の機械化進まず

 ――自動運転でドライバー不足は解消する。
 武者 当面、自動運転が実用化されることはないだろう。宅配ロボットが配達したり、ドローンが飛び回ったりする可能性は薄い。なぜなら安全性の問題をクリアできないから。国全体をベルトコンベヤーで結べば解決するが無理な話だ。機械化は工場、農業、情報で進む半面、輸送分野がボトルネックになる。ハンドリングの機械化は進んできたが、宅急便のように、すでに相当合理化されたシステムの中で配達員を機械に置き換えるのは難しい。
 ――ネット通販の利用はもっと増えていく。
 武者 コンビニにさえ行かない、全員がネット通販を利用するとなれば、ますますドライバーが要る。従来は知的労働や熟練労働に高い給料が支払われていたが、肉体労働で、かつロボットに代替できない労働の付加価値が高く評価されるようになる。
 ――隊列走行では省人化が模索されている。
 武者 かかる人件費はコスト全体の中で、どれほどの要素なのか。もともと3万円かかったスマホが技術発展で2万円になったとしよう。下がった1万円のうち輸送コストが仮に1000円として、省人化により1000円が900円に下がったとしても大差はない。むしろ、これ以上人的負荷を高める輸送効率化は不要ではないか。米国のように広大な国には、船から降ろした大量のコンテナを鉄道で運びトラックで届ける仕組みが整備されているが、日本は事情が違う。
 ――業界は荷物をもらう立場上、交渉力が弱かった。
 武者 トラック運送のコストは下がるどころか上がっていく。相対的に工場コストは下がり、輸送コストは上がる形で決着せざるを得ない。必要とされる業界のシェアが高まり、物価も上昇する。世の中の流れは明らかだ。

記者席 「たったの47年」

 大局的に、長い時間軸で物事を分析する。「だから間違うことがない」
 著書『史上最大の「メガ景気」がやってくる』でも人口減少に触れて、「2065年なんて(中略)たったの47年後」と語っている。「日経平均株価が10万円になるなら買った方がいいか」と質問したら、株式の上手な運用方法をホワイトボードに図を描いてレクチャーしてくれた。短期的な上げ下げの繰り返しの中で、安い時に買い高い時に売って利ざやを稼げるのは一部のプロだけ。もうけるのは難しい。「だがこれからの10年で見ると確実に上がる」と。
 「時々の株価の変化は生命のバイオリズムや天気と同じ」。地に足の着いた言葉に、普段縁のない投資の話にも安心を覚えた。