インタビュー

【 社長インタビュー 】
合理化へ共通基盤構築 物流課題、荷主と共有し

2018年05月29日
味の素物流 田中 宏幸社長
来年4月、カゴメ物流サービス、ハウス物流サービスなどと共に「F―LINE」として生まれ変わる味の素物流(本社・東京)。「食品を最もよく知るメーカーが協働し、安定的な流通網の構築へ最適なやり方を模索していく」と田中宏幸社長。多様な物流ニーズをくみつつ合理化を推し進めていく上で、現場の課題を当事者間で共有することの重要性も強調する。
――食品メーカー5社が出資して新たな物流会社が発足する。
田中 食品5社にMizkanを加えたF―LINEプロジェクトの背景にあるのは、市場の変化。メーカー間で商品力を競うだけの時代から、協業を通じ社会的価値を創造する時代に入った。先進技術開発を巡る自動車業界でのアライアンス(提携)と同じく、食品を消費者に届ける流通戦略を協働で行うことがいまや重要だ。
改善へ現場の見える化必要
――ドライバー不足が拍車を掛けた。
田中 伝票、外装、寸法、売り方、受発注の仕方、納品時間とメーカー間で物流ニーズはさまざま。人手不足の中、共同化で複雑な物流を整流化する必要性は一層高まっている。F―LINEではまず伝票を統一した。
――荷役作業や待機時間にも共通定義はない。
田中 改善が進みにくかった要因に、現場の情報がメーカー、物流子会社、協力会社、卸・小売りの間でうまく共有されてこなかったことが挙げられる。情報の流れが上意下達で、整流化に欠かせない課題の見える化が不十分だった。今年4月のエース物流統合の目的も、そうした従来の在り方を変えることにある。
――先日、独でAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット化)を導入した最先端の物流現場を見学した。
田中 デジタル化の進展にも驚いたが、「クラスター」と呼ぶ企業集団が、競争を前提としながらも互いの枠を超えて協働する制度がある。またドライバーを含め物流従事者の待遇は日本より高く、サービス残業はなく長期休暇も取れる。安全・品質、効率、コストの考え方が日本とは違う。
――共同化も生産性向上もF―LINEが目指すところだ。
田中 例えば納品先での仕分け作業を、事前に済ませた状態で納品するというふうに、製造・配送・販売の壁を取り払い物流を連続運転させることが大切になる。従業員の働き方改革には、受発注の仕方から現場の回し方に至るまで改善していかなくてはいけない。そのためにも物流現場の情報の共有が求められる。
物流プロ意識もっと高めて
――意識改革も鍵。
田中 「安かろう」の考え方ではこの先も質の高い流通網を維持し続けるのは難しい。どのようなビジネスでも、商品・サービス品質とコストにはバランスがある。優れた人材がより活躍できる環境づくりの意味でも、従業員には物流のプロ意識を高めてもらいたい。物流改善や運賃・料金適正収受を積極的に提案するよう、社内でハッパを掛けている。
――統合に向けて。
田中 今年の夏以降、各所で人事交流を開始。来年1月には九州で食品6社の常温品共同物流も動き出す。将来は冷凍、冷蔵、生鮮に業界を越えた協働の取り組みを拡大。設備投資で現場を時代に同期させ、優れた協働化事例を創出していく。製造品質管理の一部を物流過程で行うなど、メーカー子会社ならではの新しい運び方やセンターの形も可能だと考えている。
――協力会社とは。
田中 今後、省力化・効率化を図る手段として伝票レス、検品レスの仕組みを導入する選択肢もあり得る。同じ考え、やり方で共に歩める運送会社と新たな運び方をつくり上げていきたい。